働き方改革や医療の質の確保、医療費抑制にも寄与
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「AI(人工知能)ホスピタルによる高度診断・治療システム」の成果発表シンポジウムがこのほど、日本医師会館で開かれ、プロジェクトを進める医療機関の代表者らが発表を行った。AIホスピタルシステムのプログラムは2018年度からスタート、22年度末を到達目標にしている。
まず、プロジェクトディレクターを務めるがん研究会がんプレシジョン医療研究センター所長の中村祐輔氏が登壇、プログラム概要を説明した。医療は医学・工学・薬学・ゲノム研究等の急速な進歩に伴い、高度化・複雑化・先進化・多様化している。AI、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ技術を用いたAIホスピタルシステムを開発・社会実装する事で、高度で先進的な医療サービスを提供するとともに、医療機関における効率化を図り、医療従事者の負担軽減(働き方改革)を実現すると述べた。また、超高齢社会における医療の質の確保、医療費増加の抑制、医療分野での国際競争力の向上等にも寄与すると説明した。
災害時に患者データのバックアップ
また、患者のゲノムデータ等のビッグデータベースとその解析は、病気の予防や健康診断の個別化、新しい診断法・治療薬の開発、最適な個別化医療、ひいては健康寿命の延伸等に役立つと指摘した。さらに、大震災時には患者データのバックアップにもなり、医療機関が代わっても診療情報が確保出来る点にも言及した。
一例として、腎透析患者は3〜4日透析を受けないと高カリウム血症となり心室細動で致死的不整脈による突然死のリスクが生じるが、スマートウォッチで心電図を常時計測し(日本では医療機器としては未承認)、オンラインで情報共有していれば、救急搬送の際に優先順位を付けることが出来るという。
中村氏は医療現場で必要なAIの機能として①正確な画像診断・病理診断補助②患者に起こる危険な兆候の察知③薬剤の誤投与・画像データの見過ごし等の人為的ミスの回避④多様な病気の背景に応じた個別化医療——を挙げた。また、医療関連情報が増加する中、医療従事者間だけでなく医療従事者と患者・家族間の情報共有や知識ギャップが課題となっている点も指摘。そこで、AIを活用した双方向コミュニケーションシステムの構築、患者との会話を音声入力してテキスト化出来る電子カルテの開発等を進めたり、インフォームド・コンセント(説明と同意)の補助等に活用すれば医師ら医療従事者の負担の軽減や働き方改革にも寄与出来ると述べた。
次に、医療機関によるプロジェクト成果の発表に移った。最初に国立成育医療研究センターの五十嵐隆理事長(研究代表者)と賀藤均病院長(実施責任者)が登壇した。同センターはAIを「ハートフルなインテリジェンス」に変えるため、プロジェクトに参加。自動会計・受付、ロボットを活用した案内、診察補助としてのAI活用の他、スマートフォンでの受診予約や問診票記入等を目指している。AI推進室を設け、院内の各部署や研究所が一体となった体制を敷いたり、日本小児総合医療施設協議会と連携して会員の小児医療施設等外部の機関と協力したりしてプロジェクトを進めている。また、米国の「小児医療とAI」の研究機関とも情報交換し、国際的な視点からの開発・導入を目指している。
具体的には、音声による電子カルテへの自動入力システムの導入、ロボットを使った患者の誘導や心のケアの他、センター独自にAIを活用した小児希少疾患・難病診断補助システムや医療的ケア児・家庭の医療・生活支援システム等の研究開発に取り組んでいる。
AIホスピタルのパッケージ化も視野に
続いて、慶應義塾大学病院の北川雄光病院長が登壇した。同病院はAIホスピタルの3つの柱として①自然言語処理を用いた自動音声口述筆記②画像情報・病理組織診断情報等を含む診療・投薬情報の、セキュリティーの高いビッグデータベース構築、AIによる診療補助③ロボット・センサリング技術を活用した医療——を掲げている。17年に学部の枠を超えたメディカルAIセンターを設け、各診療科には「AI担当医」を配置。毎月、AIホスピタル委員会を開いている。
具体的には、秘密分散技術を用いた医療情報のクラウド保存システム開発、患者医療データの統合、電子カルテの自動音声入力、スマホアプリを用いた患者への情報提供、薬剤搬送ロボット、ヒト搬送ロボット等多くの課題に取り組んでいる。また、AIホスピタルを通じた国際交流や学生への啓発も行っているという。北川病院長は「全国の病院で使われるようにパッケージ化していきたい」と話す。
大阪大学医学部附属病院の木村正病院長は、「AI基盤拠点病院」構想について説明した。AI医療を実装するAIホスピタルモデル病院を目指すだけでなく、大阪臨床研究ネットワーク(OCR-net)連携19病院と医療データを統合、解析するプラットフォームを形成するという。また、院内にAI医療センターを設置、病院業務を効率化するAIシステムの開発をはじめ、AIシステムの技術的及び倫理・法・社会的評価等も行う。
木村病院長は「最も気にしたのは個人情報の取り扱い」とした上で、AI関係の有識者や弁護士、ELSI(倫理的・法的・社会的課題)研究者らと協議しながら、データ活用の際の患者の同意取得等について倫理的に問題のない体制を作っていくという。具体的な研究としては、看護記録業務支援、電子カルテの音声入力、インフォームド・コンセント支援、リキッドバイオプシー(血液などの体液サンプルを使って診断や治療効果予測を行う技術)を含めた臨床情報集積等が挙げられた。
最後に、がん研究会有明病院の佐野武病院長が登壇した。同病院はAI医療センターを設け、各部門と連携して、AIを有する「統合がん診療支援システム」を構築しようとしている。従来は、診療科別データベース、院内がん登録、臓器別全国がん登録、全国の手術・治療情報を登録・集計・分析しているNCD(一般社団法人National Clinical Database)等、いくつものデータベースへ個別の書き出しが必要だった。しかし、開発する統合データベースならば、日常診療での電子カルテの記載が、設定している各種データベースに自動的に書き込まれていく。
また、蓄積されたデータに基づき、①AIが常に解析、診療支援が出来る②全診療科データが一本化され、臓器横断解析を容易にする③電子カルテの機種に依存せず、他施設への展開が可能④患者個別の最新サマリを表示出来る。
診療部門別では胃カメラ等AIによる画像診断支援、AI病理診断等が行われている。
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