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高齢ドライバー問題の解決には 医療・福祉行政との連携が必要

高齢ドライバー問題の解決には 医療・福祉行政との連携が必要
所 正文(ところ・まさぶみ)1957年茨城県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院修了。博士(文学)。日通総合研究所研究員、国士舘大学教授等を経て、2011年から現職。専門は産業・組織心理学。東京都知事賞受賞。03〜04年英国シェフィールド大学Visiting Professor。欧州との比較研究を通して日本の労働、交通分野の持続可能性を研究する。著書に『高齢ドライバー・激増時代』『人生100年時代の生き方・働き方』等。NHK「クローズアップ現代」等ニュース解説番組にも出演。

高齢者の運転免許更新時には認知機能検査を行っているが、高齢ドライバーの事故は増え続けている。政府は自動ブレーキなど安全装置搭載車に限る限定免許等で問題解決を図ろうとしているが、それは効果的なのだろうか。1990年代から高齢ドライバー問題に関する研究を続けている所正文氏は、交通警察行政中心の対策から、医療や福祉と連携した対策への切り替えこそが必要だと語る。

——現在の高齢ドライバー問題に団塊の世代が高齢化した事は関係していますか。

所 もちろん関係しています。2025年に団塊の世代が75歳以上になりますが、ただ人口が多いだけでなく、それまでの世代に比べると運転免許の保有率が圧倒的に高いのです。男性は9割を超えていますし、女性も7割以上。現行の免許更新時の高齢者講習では、70〜74歳は自動車教習所で高齢者講習を受ける事になっています。75歳以上になると認知機能検査が加わりますが、この検査も自動車教習所の指導員に任されています。そのため団塊の世代が75歳以上になると、検査を受ける人が教習所にあふれることになります。キャパシティ的には現在でも対応が困難になっていて、全国各地で高齢者講習を受けるための順番待ちが半年といった状況が出ています。

——高齢者が皆運転免許を持っている時代に突入するのですね。

所 高齢者皆免許時代と呼んでいます。団塊の世代は、かつて若い世代の皆免許時代を生み出し、そのまま高齢化して、高齢者皆免許時代に繋がってきているわけです。そして、高齢者が皆運転免許を持つようになると、それ以前には起きなかったような問題が起きてきます。

——どのような事ですか。

所 心身機能の低下は年を取るほど個人差が大きくなりますが、6段階に分けられると私は考えています。レベル1は身体的エリート。シニア五輪参加者やマラソンを完走するような人です。レベル2は身体的適正。スポーツクラブで体を動かしたり、強度の農作業が出来たりするレベルです。レベル3は身体的自立。ゴルフやウォーキングをする等、活動的な生活を送れる人。レベル4は身体的虚弱。生活は自立しているが、屋内生活が主体の人です。レベル5は自立困難・要介護の状態。レベル6は寝たきり。私が高齢ドライバーの調査を本格的に始めたのは90年代前半でしたが、その頃の高齢ドライバーは、多くがレベル3までの人達でした。そして、当時行った運転適性検査では、60代より70代の人達の検査結果の方が良かったのです。そうなったのは、当時の70代の免許保有率が非常に低かったからでしょう。その人達の多くは40代になってから苦労して免許を取った人達で、常識があって運転マナーもいいし、健康状態も良く、経済力もある人達が多かったのです。当時の60代は免許保有率が少し高くなり、運転免許が大衆化してきた年代と言えます。この人達が高齢ドライバーとなった2000年代には、レベル4の人も含まれるようになっていました。免許保有率が上がることで、いろいろな人が運転する事になったわけです。現在ではレベル5の人も少し含まれるでしょう。そうしたことで、高齢ドライバー問題が大きくなっているのです。

政府案では問題を解決出来ない

——自動ブレーキなどが高齢ドライバー問題の解決策として期待されていますが。

所 政府の高齢ドライバー対策は確実にそちらを向いていて、自動車産業をバックアップしようという意図が透けて見えています。自動運転などの次世代技術開発は是非も進めて欲しいと思いますが、現時点で実用化されている技術は、高齢ドライバー問題を解決出来る水準には達していません。地方の高齢ドライバーは、歩道も信号もないような道路を、軽自動車や軽トラックで走っているわけです。それを考えると、歩行者や自転車を感知する高性能安全装置が必要ですが、それを安いコストで軽トラックに後付け出来る状況にはありません。安全機能搭載の自動車のみ認める限定免許を導入するのであれば、コストが下がり、誰もがそういう車を購入出来るレベルに達してからにすべきでしょう。シートベルトやエアバッグのようなレベルで、自動ブレーキなどの安全装置が広く大衆化するまでには、まだ年月がかかりそうです。

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