サンディエゴ
米国カリフォルニア州サンディエゴは、今回もう1カ所視察したオレゴン州ポートランドとは違う意味で、高齢者に人気がある街である。
この街の魅力はなんといっても季節である。雨が少なく天気が良く、霧は時々出るがカラッとしている。このような気候が魅力となり、フロリダと並んで高齢者が住みたい街になっている。
サンディエゴは人口約140万人。日本人の駐在者、留学生、研究者、また米軍基地や施設も多く、日本人の配偶者も多く在住している。かつては軍事産業で栄えた都市であるが、今ではモバイル技術・バイオサイエンス・ライフサイエンスが中核産業になっている。
メキシコに隣接という土地柄のため、メキシコ文化やメキシカンフードが現地の人達の間では浸透しており、街も中南米の雰囲気がある。
生物医学系の研究施設としてはソーク研究所、スクリプス研究所が有名で、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)も研究機能が高い。医療機関としてはスクリプス研究所やUCSDのグループ病院がある。今回訪問しなかったがシャープ・メアリー・バーチ婦人科・新生児科病院のグループ病院や、今回訪問したカイザーパーマネンテのグループ病院もある。
特に「La Jolla(ラホヤ)」というサーフィンのメッカでもあるエリアでは、新しい病院が続々と建設され“病院銀座”といった様相を呈している。
ソーク研究所
ソーク研究所(Salk Institute for Biological Studies、写真①)は、ポリオワクチンの開発者であるジョナス・ソーク博士、科学評論家のジェイコブ・ブロノフスキー氏、科学者のフランシス・クリック氏によって設立されたサイエンス研究所である。
27エーカー(11ヘルタール)の敷地にあるこの建物はルイス・カーン氏が設計したもので、1962年春にラホヤで建設がスタートし、1963年に完成した。私立の非営利法人である。
1991年に歴史建造物として認定を受け、27エーカーの敷地全体は2006年に「National Register of Historic Places(米国国家歴史登録財)」に認定された。
ソーク研究所には約850人の研究者が約60の研究グループに分かれ、分子生物学・遺伝子学、神経科学、植物生物学の3つの研究領域において研究に携わっている。
研究トピックにはエイジング、がん、糖尿病、先天性奇形、アルツハイマー病、パーキンソン病、AIDS(後天性免疫不全症候群)、神経生物学などがある。
設立当時の資金は、病気などの新生児を救う活動を行っているボランティア団体「The March of Dimes」によって提供され、現在でもその支援は継続している。
米国国立衛生研究所(NIH)、全米第2の規模を誇るハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)、その他の民間機関もソーク研究所のプロジェクトを支援している。
ソーク研究所はノーベル賞学者を輩出している。例えば、 DNAのらせん構造の発見で有名な前出のフランシス・クリック氏はソーク研究所の研究者であった。
筆者が感動したのは研究所の雰囲気で、あたかも高級ホテルのような快適さがあった(写真②③)。こういった施設で研究が出来ることは非常に幸せなのではないかと思った次第である。建物全体の構造は昔のキリストの修道院に似せた造りになっている。
建物の建築には数々の工夫が凝らされており、思索にふけるようなスペースも作られている。内部は著名な研究者が使用するスペースのため、中を見ることは出来なかったが、ここで次の研究プランあるいは現在の研究の見直しなどを行っているのであろう。
また、研究者同士のコミュニケーションを重視しており、階段を登るために少し遠回りをする仕組みになっている。そのため、遠回りをした所で、誰かと出会ったりする。時にはそこで話が弾むのではないだろうか。また、写真④に示すように野外に黒板があるので、ここでミーティングや議論をすることも出来る。
近年、日本でもイノベーションという言葉がよく聞かれる。研究開発のイノベーションを起こすことだとすれば、真の意味のイノベーションを起こすにはこのような研究環境が必要だという示唆かもしれない。
実際米国では、病院の中にもここまでの規模ではないが創造的な思考を巡らすことが出来るような環境を作ることが流行っている。日本の大学も産学連携をしていく中で、そのような取り組みが必要ではないだろうか。
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