424の公立・公的病院の再編統合を求めた「424ショック」をもたらした厚生労働省医政局が揺れている。全国の自治体から猛反発を受け、思うような再編統合が進まない可能性が高くなっているからだ。地域医療構想による病床の機能分化・連携は既定路線だが、「混乱」が起きた事で医政局幹部の力量が問われる事態となっている。
医政局長は長く医系技官ポストだったが、舛添要一・元厚労相が「妊婦のたらい回し」問題に対応できない医系技官を見放し、医政局長を事務官ポストに差し替えた経緯がある。現在は吉田学・医政局長(1984年、旧厚生省)と迫井正深・大臣官房審議官(92年、旧厚生省)、佐々木裕介・総務課長(90年、旧厚生省)の態勢で仕切る。吉田氏と佐々木氏がキャリア官僚で、迫井氏は将来を嘱望される東京大卒の医系技官だ。
なぜここまで「混乱」が広がったのかを考えると、1652ある公立・公的病院のうち424が再編統合対象になる「重み」を医政局全体で共有していなかった事が大きい。マスコミへの事前ブリーフは関係者への根回しが忙しいとの理由で課長補佐1人に任せた。マスコミが再編統合に統廃合も含まれると記したのは厚労省の「本音」を反映したものだが、これを「マスコミの誤報」(医政局幹部)と断じ、マスコミとの関係を悪化させた。自治体や医療関係者を対象にした各地での説明会では、「マスコミがちゃんと書いてくれなかった」と説明する厚労省幹部に、「マスコミのせいにばかりするな」と出席者から一喝される場面もあった。ある政務3役の1人は「マスコミに責任を転嫁する話ではないだろう」と呆れる。
医政局の人材配置も大きく影響している。トップである局長の吉田氏は野田佳彦政権時代に首相秘書官を経験し、「細かいところまで気が利く能吏タイプ」(厚労省職員)だ。一方で、迫井氏は将来の医務技監候補とされ、「やや荒っぽいところがある豪腕」(同)との評判。説明会の対応は迫井氏らが主導し、吉田氏は詳細を知らなかったとの話もあり、医政局内での意思伝達体制に問題があると言える。医政局には医系の他、看護や歯科のポストもあり、組織的に「技官」が強い面も影響している。
こうした混成部隊をまとめるには、局長の右腕となる総務課長の存在も重要だが、佐々木氏の評判は芳しくない。児童家庭局や老健局、保険局などを歴任し、国立病院機構本部企画経営部長からの登用となったが、省内からは「根回しがうまくない佐々木氏がなぜ総務課長なのか疑問だ。鈴木俊彦・事務次官人事の影響で、優秀な人間を官房や年金局などに配置した付けが回った」との声が漏れる。期待の若手の1人だった医療政策企画官だった千正康裕氏(2001年入省)が19年9月末で辞職するなど、医政局の状況に問題がある事は明らかと言える。
厚労省は再編問題に関し、20年9月までに都道府県に対応を求めているが、既に全国自治体病院開設者協議会が期限の延長を求めており、今後も波乱が続く事が予想される。20年夏の幹部人事で吉田氏は事務次官候補の1人と目されているが、今後の対応次第では幹部人事にも大きく影響を与えかねない。
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