職場での言動がパワーハラスメント(パワハラ)に当たるかどうか、その判断材料となる厚生労働省の指針案が大筋で固まった。
ただし、使用者側の主張を反映し、ハラスメント関係の指針では初めて「該当しない事例」が示された事に、労働者側には不満がくすぶっている。両者の板挟みとなった厚生労働省は「ギリギリの落としどころ」(幹部)と漏らしている。
【パワハラにあたる】▽相手に物を投げつける▽業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返す▽意に沿わない労働者を仕事から外し、長期間にわたり別室に隔離する、等。
【パワハラでない】▽懲戒処分を受けた労働者に、通常業務に復帰させるために一時的に別室で必要な研修を受けさせる▽繁忙期に、担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる▽労働者の能力に応じ、一定程度業務内容や業務量を軽減、等。
11月20日にあった労働政策審議会の分科会では、このような指針案とする事で労使が大筋合意した。厚労省は2019年内に最終案をまとめ、パワハラを「優越的な関係を背景にした言動」による被害などと定義した改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が施行される20年6月までに周知する。
厚労省は10月の分科会で、「身体的攻撃」などパワハラ6類型に沿った指針の素案を示した。この段階では「経営上の理由により、一時的に能力に見合わない簡易な業務に就かせる」事などを「パワハラでない」例に含めていたが、「(退職を強要する)『追い出し部屋』を認める事になる」という労働側委員の指摘で、今回の指針案からは削除された。こうした修正を経て、指針案は固まった。
形の上では「労使合意」。それでも、事実上は使用者側が押し切った格好だ。「パワハラでない」例まで示された事に労働側は納得していない。20日の分科会で連合の井上久美枝・総合政策推進局総合局長は「『使用者の弁解カタログ』として悪用される危険性がある」と批判した。パワハラでないとされた事例の中には「能力に応じた業務量の軽減」など幅広く解釈できそうなものもあり、労働側は「『ここまではやっていい』という事例集になりかねない」と訴えている。
「パワハラでない」事例が示されたのは、「業務上の指導とパワハラの線引きが非常に困難」と主張する使用者側の強い意向を受けたものだ。
日本労働弁護団は「労働者の救済を阻害する」と削除を求めてきたものの、厚労省は耳を貸さなかった。
指針案について、大手のIT関連企業の役員は「パワハラに該当しない事例があった方が、安心できる」と本音を漏らす。
厚労省は「指針が全てではない」と説明しつつ、幹部は「労働政策は労使合意が前提。施行まで半年しかなく、もうタイムリミットだ」と話す。
LEAVE A REPLY