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未来の会

医師の働き方改革は「兼業・副業」を制約する側面も

医師の働き方改革は「兼業・副業」を制約する側面も
一律のルール化は難しく、現状追認する仕組みになるか

政府が推進する「兼業・副業」に関する法整備が難航している。兼業や副業をしながら働く人にとって収入が増えたり、転職がしやすくなったりするメリットがある一方で、労働時間を通算するかが決まっておらず、労働時間の通算方法次第では減収の恐れも出てくる。特に医師の場合は労働時間の管理が難しい事情があり、法整備が難航している一因となっている。

 政府は働き方改革の一環として兼業や副業する人を増やしたい考えだが、制度設計を誤れば働き方改革に繋がらない可能性も出てきてしまうため、慎重に検討している。労働時間の管理の在り方について、2020年の通常国会に関連法案を提出するのは見送られる方針だ。

勤務医の8割がバイトをしている

 副業・兼業している人は実際に増えている。17年の総務省調査では、兼業や副業をしながら働く人は07年の約100万人から17年に約130万人へ伸びた。一般労働者の場合、所得が低いために生活費を稼ぐため複数のアルバイトを掛け持ちする「ダブルワーク」をするケースと、所得は比較的高いものの自身のスキル向上のため別の会社で働くケースがあり、2つのケースでは事情が大きく異なる。

 例えば、関東地方で働く40代女性のケースを紹介したい。この女性は40代の夫と中学生の長男と3人暮らし。長男の塾の費用などを捻出すると、夫の給与だけでは暮らしていけないという。そのため、女性も「ダブルワーク」をして生計を立てている。

 1つ目の仕事は午前3時から午前7時まで給食センターの調理補助員として働くもの。2つ目は製造工場で午前9時から午後5時半まで車両部品の組み立て作業に汗を流す。労働時間は1日当たり11時間半に達するが、時給は最低賃金を上回るぐらいのため、月給は手取りで20万円程度にすぎない。

 労働基準法で定められている1日の労働時間は8時間で、1週間単位だと40時間までとしている。これ以上働くためには労基法36条に基づき、労使間で取り決めた「36協定」によって労働時間の上限を定めた上で、割増賃金を支払う必要がある。政府の働き方改革に伴う改正労働基準法により、残業規制が新たに設けられ、年間では720時間とされた。

 この女性の場合は800時間以上の「残業」をしている計算になるが、割増賃金も支払われておらず、上限規制の720時間も超えている。しかし、女性のように複数の会社で雇われて働く労働者に関しては現行法の規制の対象外で、労働時間を通算するか否かは決まっておらず、半ば「脱法」的な状態が続いているといえる。

 このため、厚生労働省は有識者検討会を発足させ、考え方の整理に乗り出した。しかし、有識者会議でも様々な意見が出たため方向性を定めるまでには至らず、8月にまとめた報告書では、労働時間の管理について①労働者の自己申告を前提にして通算して管理する②それぞれの事業主ごとに上限規制を適用する——など両論を示すに止まった。

 労働時間を通算すれば、上限規制との兼ね合いで労働者側の減収に繋がる。一方、事業主ごとに労働時間を管理すれば長時間労働に繋がりかねず、労働者の健康確保は難しくなる。労働管理に費やす事務作業の負担も経営側に重くのしかかる。

 病院に勤める医師の約8割がアルバイトをしているとの民間調査もあるほど、医師も複数の医療機関で働いているケースが多く、兼業や副業の場合の労働時間の管理について考え方が整理されれば大きく影響を受ける。日勤や当直をアルバイトとしてこなす医師は、アルバイトはスキルアップに繋がる他、給与の補填的な意味合いが強いが、労働時間は増え、集中力の欠如による医療過誤に繋がりかねない。「本業とアルバイトで毎日へとへと」と漏らす若い医師も多い。

法整備は難しいが労災保険支給額は修正

 医師の働き方改革に伴い、24年度からは地域医療を担う特定の病院に勤める医師の残業時間の上限は最大で年1860時間とする方針が固まっている。月換算で155時間となり、いわゆる「過労死ライン」(複数月平均80時間)の2倍近くになる。一方、一般の勤務医の上限は年960時間とされ、仮に労働時間を通算する方法を選んでしまうと、こうした勤務医の多くが、「アルバイト」をする事が出来なくなる可能性が高い。

 今回、法整備がまとまらなかった背景には、こうした事情が大きく影響している。12月2日に開かれた医師の働き方改革の推進に関する検討会で、今村聡・日本医師会副会長は「医師の兼業や副業はいろいろなパターンがあり、簡単にまとめられるものではない。一律のルール化は慎重に行うべきだ」と主張した。厚労省のある幹部は「医師の働き方に与える影響を考えると、簡単に通算方式を選ぶ事は出来ない」と理由を明らかにする。

 一方、一部の大手企業を中心に社員に対する兼業・副業を解禁する動きが広がっている。サイボウズやカゴメ、ロート製薬などは有名だ。人事担当者は「業務に生かすことができる知識やスキルを獲得できる。新事業の立案やアイデア創出のきっかけとなり、本業にも良い影響を与える事が出来る可能性が高い」と指摘する。

 政府関係者は「政府が兼業や副業を進めようとしているのは、健康寿命がこのまま伸びていけば、定年退職後に高齢でも働く必要が出てくるのに備えるという意味合いが大きい。ITなどの技術革新が進めば、産業構造も変わり、転職しなければならない事態が今後想定され得る。このような場合に備え、どんな事態にも対応できるような高度人材の育成を少しでも図りたいという事情がある」と明かす。

 現状では、兼業・副業をする人は低所得層と高所得層による二極化が顕著になっている。ダブルワークをしながら日々の生活費を稼ぎたい人と、大企業に勤めながらスキルアップを目指す人では、事情や目的が大きく異なる。さらに、医師の働き方にも影響する事情も勘案しなければならない。厚労省幹部は「いずれのケースも同じように考えるのは難しい。現状を追認するような仕組みにならざるを得ない」と述べる。

 ただ、労災保険の支給額については見直す方針だ。現行の支給額の算定は、労災に遭った勤務先1社から得ている賃金を基に決まる。ただ、副業や兼業している人が労災に遭ったケースを想定し、複数の就業先の賃金合算分を算定基準とする。

 アルバイトなど複数の医療機関で働く医師の健康確保について、厚労省は面接指導結果が医療機関同士で共有され、その結果を踏まえた就業上の措置が実施されるのであれば、1つの医療機関が面接指導する事を許容する考えを示している。

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