9月の内閣改造で再登板となった加藤勝信・厚生労働相が無難な滑り出しをみせている。前回任期(2017年8月〜18年10月)では、裁量労働制の拡大を巡る労働時間データの捏造問題など省内の不祥事が発覚し、国会答弁で野党から「ご飯論法」などと批判されたが、抜群の安定感で乗り切った。「第2次政権」では、来年の通常国会で安倍政権の鬼門ともいえる年金制度の見直し法案が審議され、給付と負担の見直しにどこまで踏み込むかが注目される全世代型社会保障検討会議の最終報告が来年夏に取りまとめられるなど、改めてその手腕が注目される。
加藤氏は東京大経済学部を卒業後に旧大蔵省に入省し、労働担当の主計局主査などを経て、故加藤六月・元農林水産相の娘に婿入りして衆院議員となった。自民党厚労部会長を歴任し、社会保障と税の一体改革時には実務者として汗を流した。前回の厚労相就任時は、労働時間データ問題という不祥事はあったものの、迷走していた受動喫煙対策を強化する健康増進法改正案を取りまとめ、働き方改革関連法案とともに成立させるなど一定の実績を残した。省内を去る時には、多くの幹部が名残を惜しんだ。
加藤氏は厚労相を退任後、自民党総務会長に抜擢され、マスコミの間では「ポスト安倍」を窺う1人ともてはやされた。9月の内閣改造前、本人は周囲に「これまで取り組んできた社会保障ではなく、安全保障など新たなフィールドに取り組みたい」と述べ、外相や防衛相就任に意欲を燃やしていた。経済閣僚での起用との報道もあったが、最終的には厚労相に登用にされ、「やや落ち込んでいた」(大手紙記者)という。
就任に当たり、前任時に厚労相秘書官だった水谷忠由・大臣官房参事官(1997年、旧厚生省)と佐々木菜々子・人材開発統括官室参事官(96年、旧労働省)を呼び戻そうとしたが、既に課長級に出世していたため断念した経緯がある。社会援護局障害児・発達障害者支援室長だった山口正行氏(99年、旧厚生省)、訓練企画官だった野澤めぐみ氏(2000年、旧労働省)を起用した。
とはいえ、再び舞い戻った厚労省では、持ち味である安定感を発揮している。開会中の臨時国会では重要法案はないものの、国会答弁や閣議後の記者会見で失言はなく、根本匠・前厚労相と比べ、職員の間からも「安心して見ていられる」との声が上がる。ある幹部は「長く社会保障分野に関わっているため、大臣レクをしても職員よりも詳しい。昔のことを詳しく覚えているので、大臣の質問に答えられないケースもある」と苦笑する。
安倍晋三首相の側近という立場は相変わらず健在で、日本医師会の横倉義武会長や自民党〝厚労族のドン〟伊吹文明・元衆院議長、実力者の田村憲久・元厚労相らからの信頼も厚い。重要な政策は、これまで以上に加藤氏が決める場面が増えそうだ。
ただ、一部の与党厚労族からは元大蔵官僚で、調整役というその政治手法から「結局は財務寄りではないか」との見方もある。それだけに、年末の診療報酬改定や年金制度改革法案の行方、その先にある来年夏の給付と負担の見直しに向け、厚労行政に携わる者にとって加藤氏の動向は目が離せないだろう。
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