厚生労働省が来年の通常国会に提出する年金改革法案の素案が大筋見えてきた。「給付カット」策はなく、「低迷する今の給付水準をいかに底上げするか」に躍起となっている印象だ。「野党がガッツリ反対してくる法案にはならず、次の国会は年金で荒れるといういつもの景色にはならない」。厚労省幹部は妙な自信を示している。
年金制度の見直しで大筋固まったのが、受給開始を選べる年齢(現在は60〜70歳)の上限を75歳まで繰り下げる案だ。年金は受給開始年齢を遅らせるほど金額がアップする。最新の試算で、75歳まで繰り下げると月額は84%増になるとした。長く働いて受給開始を遅らせてもらう代わりに、受け取る年金額を引き上げるという、新規財源のいらない苦肉の策でもある。働いて一定収入のある高齢者の厚生年金を減らす「在職老齢年金制度」の縮小案も議論が山場に差し掛かりつつある。
65歳以上の人は賃金と年金の合計月額が「47万円超」だと、年金が減額される。60〜64歳の人は「28万円超」だ。賃金が上がるほど年金も減り、2018年度は約9000億円の給付カットに結び付いた。ただ、働くと年金が減る仕組みには、「高齢者の就労意欲を失わせる」との指摘が出ている。
「70歳までの雇用」を目指す安倍政権は、同制度の見直しに目を付けた。全廃も視野に入れていたものの、一度に廃止すると9000億円を要し、その分を若い世代の年金カットで補う必要が出てくる。「金持ちの高齢者優遇」との批判も警戒し、今回は減額となる基準を一律50万円台に引き上げることを検討している。
この他、高齢者の雇用促進を意識したものとしては、公的年金に上乗せする確定拠出年金について、加入できる年齢の上限を今の「原則59歳まで」から69歳(企業型の場合)まで延長する。
一方で、まだ決着がついていないのが、厚生年金の適用拡大だ。今は「従業員501人以上」の企業で「週20時間以上」働き、「月収8万8000円以上」などであれば加入できる。要件を全て撤廃すれば、1000万人超の人が新たに加入でき、年金給付水準も底上げされる。この要件をどこまで緩和できるかが焦点だ。
ただ厚労省は、「大幅な見直しは無理」(幹部)とハナから諦めている。厚生年金の保険料は労使折半で、負担が増える事業主の反発が目に見えているからだ。反対勢力を説き伏せようという気概は見えず、短期雇用の人への拡大や、規模要件の見直しでお茶を濁そうとしている。来年の通常国会は介護保険制度改革法案もセットで提出される。厚労省幹部は「年金の法案はなるべく摩擦を減らすものにする」と話す。
というわけで、最大の焦点だった厚生年金の適用拡大は、最少限度にとどまる見通し。さらに、8月に公表した「年金財政検証」で掲げていた「基礎年金の納付期間(40年)を45年に延長」する案は、一顧だにしていない。基礎年金の給付は半分が国庫負担。給付が増えれば新たな税財源が必要になり、「現時点では理想論」(厚労省幹部)という。難航しそうな案は始めから排除し、安全運転に徹した見直しに落ち着きそうだ。
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