令和元年も残すところ2カ月となった。ラグビーワールドカップの熱狂に続き、来年は東京五輪・パラリンピックが開かれる。にぎやかな祭典が続く日本だが、少子高齢化の現実は厳しく、財政の逼迫状況は変わらない。中央・地方政界は「持続的な実入り(税収増など)」が見込め、「東京五輪の次の巨大利権」と呼ばれる統合型リゾート(IR)へと急加速を始めている。本命と目される横浜市が正式に名乗りをあげ、争奪戦が激しさを増すカジノと政界の相関関係を探ってみた。
「面白い内閣改造だった。メディアは小泉進次郎・環境相など新閣僚ばかりに目が行っていたが、今回の改造の裏の見所はカジノだったんだ。候補地選びやIR関連の巨大利権に誰が絡むのかが焦点だったんだ。少なくとも僕はそう思っている」。自民党中堅議員はそう言ってニンマリ笑った。カジノは国際ホテルや国際会議場・展示場などと一体で整備される。統合型リゾートの名称はここから来ている。施設の中で、カジノ部分の床面積は3%以内と決まっている。相対的にホテルなどの施設は巨大化することになる。
施設の基準も定められている。国際ホテルの客室総床面積は10万平方㍍以上で、客室数が国内最大の品川プリンスホテルを軽く上回る。国際展示場も東京ビッグサイトを超える規模だ。要するに、国内最大級のホテル、会議場、展示場をそろえたIRが最大3カ所誕生することになるのだ。投資額は1カ所で1兆円、総額3兆円もの巨大プロジェクトと予測されている。「巨大投資付きの寺銭稼ぎ」なのだから、財政難の地方都市は目の色が変わって当然だろう。
〝横浜推し〟の菅官房長官がリードか
先の中堅幹部が続ける。
「候補地は10都市ぐらいだが、有力なのは大阪、横浜、これに和歌山、長崎が絡む。大阪と横浜は菅義偉・官房長官、和歌山は二階俊博・自民党幹事長、長崎は麻生太郎・副総理兼財務相と関係が深い。自民党の通例でいうと、この3人で3カ所を分け合うのだが、実は、菅さんが擁立した鈴木直道知事率いる北海道が伏兵として注目されている。大阪、横浜、北海道と決まれば、菅さんの総取りだ。それで、候補地選定に影響力のある閣僚ポストがどうなるか、党内は興味津々だったんだ」
IRの所管は複数の官庁にまたがる。建設認可は国土交通省、運営管理は内閣府、エンターテイメントは経済産業省、賭博は国家公安委員会、ギャンブルの上がりの3割は国庫に入るから財務省、ギャンブル依存症対策で厚生労働省と6省庁が絡む。意思決定機関となる閣僚会議は、首相の他、官房長官、財務、国交、経産、厚労、国家公案委員会の6閣僚で構成される。
改造の結果は、菅官房長官と二階幹事長の実力者2人が微妙なバランスを取る形になった。閣僚会議の顔ぶれは、安倍晋三首相と菅官房長官、麻生財務相、赤羽一嘉国交相(公明党)、菅原一秀・経産相(無派閥)、加藤勝信・厚労相(竹下派)、武田良太・国家公安委員長(二階派)に決まった。耳目を集めたのは、初入閣で重要閣僚のポストを射止めた菅原経産相だ。菅官房長官と同じ無派閥議員だ。抜擢は菅官房長の肝いりとされる。赤羽国交相は公明党だが、国交省は建設・観光業界のドンである二階幹事長の影響力が絶大だ。
整理すると、「横浜、大阪、北海道推し」の菅官房長官の勢力が〈2+α〉、「和歌山推し」の二階幹事長の勢力が〈2−α〉、「長崎推し」の麻生財務相の勢力が〈1〉となる。公明党に関しては、二階幹事長、菅官房長官の2人の影響力が拮抗しているとされる。案分がどの位になるか不明なので「α」で表現しておく。加藤厚労相は竹下派だが安倍首相の側近の位置付けだ。安倍首相の判断も大きいのだが、地元との関係なども踏まえ、現状を見定めれば、菅官房長官が一歩リードというところだろう。
実は今回の内閣改造・党幹部人事の焦点の1つに二階幹事長の「辞任→副総裁就任」のプランがあった。岸田文雄・政調会長を後継に据えたい安倍首相と麻生財務相の意向だったとされる。「二階幹事長が党内をまとめてくれるのは有り難い」と、安倍首相を翻意させたのが菅官房長官だった。二階幹事長としても、実権を伴わない副総裁に祭り上げられるのは本意ではなく、IRに関しては武田国家公安委員長の入閣で良しとせざるを得なかったようだ。
4選か否か、ポスト安倍レース開始
自民党幹部が語る。
「IRを巡る閣僚人事は確かに今の政権のパワーバランスを知る指標の一つだろう。だが、それもポスト安倍という権力闘争の大きな流れの一端にすぎない。安倍首相と麻生財務相は世襲のプリンス。これに対し、菅官房長官、二階幹事長はいわゆる党人派だ。世襲グループは後継に大人しくて言うことを聞く岸田政調会長が最適だと考えている。これに対し、党人派はたたき上げの苦労人の起用が党の活性化に繋がると思っている。この2つの考え方が、政策や選挙や人事に反映される。ただの利権争いではなく、次期首相を見据えた政治闘争でもあるんだ」
内閣改造では、小泉環境相はじめ、無派閥から6人が入閣した。そのいずれもが同じ無派閥の菅官房長官に親近感を抱いているとされる。メディアはこぞって「無派閥が最大勢力」と、菅官房長官の存在感が増していることを伝えた。
安倍首相の在任期間は11月20日に桂太郎・元首相を抜き、憲政史上最長となる。衆目が一致する後継者不在の状況を踏まえ、二階幹事長は再任後、さっそく「安倍さんの後は安倍さん」と総裁4選の観測気球を打ち上げた。菅官房長官の力が増しているのを警戒する安倍首相周辺に気配りしたものとみられている。菅官房長官は自らが首相候補になることについて、無関心を装っているが、安倍首相周辺からはこんな心配の声も出ている。
「安倍さんは戦後のうっくつした歴史観や世界観を正常化したいと考えている。必然的にその政治的関心は憲法改正や外交に向いていく。そんな安倍さんを尻目に菅さんや二階さんは着々と力を蓄えている。長期政権が続いても、足下が菅さん、二階さんに埋められてしまったのでは〝裸の王様〟になってしまう」
表現はどうかと思うが、菅官房長官の台頭が安倍首相の権力の一部空洞化を招くのは確かだろう。安倍首相はそうした状況も読み込みながら、最大の焦点である衆院解散・総選挙や、さらなる内閣改造・党人事などのタイミングを見定めていくことになる。安倍首相の総裁任期も残すところあと2年。憲政史上最長の記録を更新しながら、安倍首相の続投も含めた〝ポスト安倍レース〟が始まっている。
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