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未来の会

医療機関に必要な「記者会見・報道対応」

医療機関に必要な「記者会見・報道対応」

窓口の一本化、情報発信の原則確認、会見の有効活用

一般企業と比べて、医療機関はマスコミ対応に不慣れなところが少なくない。日本医療法人協会は8月、医療安全管理者を対象に「記者会見・報道対応」をテーマにした講習会を開いた。医療取材の経験豊富な道丸摩耶・産経新聞記者が講師を務めた。

 まず道丸氏は、取材依頼という「前触れ」の有無による対応の違いを示した。前触れがあるのは、例えば医療ドラマの監修や撮影協力、新しい治療法や研究成果の発表、感染症の流行など医療情報の説明を求められたりする場合だ。事前に取材内容も分かるので、取材日程を決め、対応内容を事前に準備することができる。

取材対応に求められる「3大原則」

 一方、前触れがなく突然の対応が迫られるのが医療事故、職員の不祥事や研究不正、事件現場、被害者や加害者の受療先としての取材などだ。道丸氏は「前触れのない取材に対しても準備はできる」と述べ、取材対応の3大原則を示した。①事案と取材を共に「経由」する担当者を決める②「言っていいこと」「言ってはいけないこと」の原則を確認する③記者会見を効果的に使う——である。

 具体的には、①では、広報担当者が現場で起きている状況を把握する必要性があることと、複数のマスコミに「同じ情報」を提供して混乱を防ぐことができる点を強調した。

 ②の「言ってはいけないこと」は「攻撃・逆ギレ、患者やトラブル相手の名誉を傷つけること、個人の考えや見立て、不確実な情報」などだ。その上で、その時点で「分かっていること」と「分からないこと」を大別する。分からないことは「現時点では分かりません」とした上で、「調べています」「○頃をめどに調査が終わります」と進行形の事実関係とともに伝えると記者側は取材しやすい。また、何もかも「分かりません」では記者側に混乱をもたらすので、分からない場合でも「何も把握していない」のか「細かい内容までは分からない」のかを区別する。理由を付けることで、マスコミからの誤解も避けられる。

 分かっていることも「院内の調査で事実関係として分かった」のか、「外部から指摘があるということだけが分かっている」のか、次元は様々。重要なのは「分かっているが言えないこと」の扱いだ。言えない理由(=真実)を添えて伝える必要がある。「分からない」と嘘をつくと、ばれた時のダメージが大きい。例えば、患者側の同意が取れていないとか、一方の当事者からしか話が聞けていないといったケースだ。

 ③について、道丸氏はまず「会見すると叩かれるのでは?」という記者会見への誤解を指摘、「会見してもしなくても叩かれる」と述べた。その上で、記者会見は「世間を味方に付ける絶好の機会」と強調。そして「良い記者会見」の特長として以下の点を挙げた。

■会見者が「当事者意識」を持っている。

■嘘がない。分からないことは分からない、言えないことは言えないと答えるが、理由も述べるため無責任な印象を回避できる。後から会見と異なる内容が出てくることもない。

■謝罪会見の場合は特に、会見予定時間が過ぎても、記者からの質問を打ち切らない。

■責任者が詳細を知らない場合は、詳しい担当者を同席させる。

■会見資料が的確。事実関係を時系列で説明する。

■今後の見通しや今後も取材を受けることを明言する。過剰な取材攻勢を回避できる。

 道丸氏は記者会見へのアドバイスとして「死亡事故が起きた時は『遺族への対応が最優先』と報道対応は遅れがちになるが、『他の患者への対応』と考えて対応してほしい。会見で記者は説明資料よりも質疑に重きを置き、会見者の態度を見ている。記者にも様々なタイプがいるが、会見で見抜くのは難しい」と述べた。

 道丸氏は、医療事故が起きた際の記者の取材先として①医療機関(院長、広報担当)②手術をした医師や携わったスタッフ③警察、検察④患者(死亡事故なら遺族)⑤医療に詳しい専門家——を挙げた。専門家には、処置は正しかったのか、一般的な方法なのかといった医学的な見方を聞く。記者は必要に応じて取材先を広げていくが、医療機関の会見で事故を知った場合、①②⑤を中心に取材する。

記者や取材源で記事内容が異なる

 医療事故の取材で動くことが多いのは社会部の記者だ。社会部の中でも遊軍記者、警視庁担当記者、厚生労働省担当記者がいる。地方などでは地方支局の記者が取材したり、医療部などの記者が一緒に取材したりすることもある。道丸氏は「厚労省担当記者などは医療機関の取材に慣れているが、地方支局の記者や警察担当の記者などは必ずしも医療に通じていない。記者によって取材の厚みは変わる」と話す。

 また、取材源により記事内容も変わる。造影剤の誤注射で患者が死亡した事故では、医療機関が情報を発信、新聞に掲載された記事が横並びになった。一方、無資格で中絶手術を行った医療機関で女性が死亡した事件は、遺族が情報を発信。記事内容は各紙で異なり、「患者・遺族の情報に基づく記事はエモーショナルになる傾向がある」と道丸氏。

 マスコミが医療事故を報じる意義について、道丸氏は「医療は誰もが受ける可能性があり、高い安全性を求められる。医師には高い倫理観が求められており、隠蔽やカルテ改竄などがないかも確認する必要がある。また、医療は“密室”で行われるため、真実は何かを深く取材、追求する必要がある。さらに、報道して明るみに出すことで、同様の事故が起きていないか、再発防止に繋がる」と述べた。

 世間は医師など“社会的地位”の高い人達の不祥事への関心が高い。新聞やテレビのニュースサイトの記事は一定期間が過ぎると削除されるが、ネットでコピペされた記事はいつまでも残る。ニュース記事で医師の実名が伏せられても、病院サイトに医師の氏名が出ているので、ネットで特定されることもある。このような中で、最後に道丸氏は取材対応のお願いとして以下の3つを示した。

■とにかく嘘は駄目。ばれた場合、取材対応者への信頼が揺らぎ、取材が長引く。

■「分かりません」の連発は、隠蔽していると思われて記者の闘争心に火を点ける。「分からない」の度合い、理由まで説明することが重要。

■「医療の不確実性」など医療人の“常識”は通じない。記者は“結論”を急ぐ生き物。

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