意識がなくても本人の意思に基づいた医療を迅速に提供
高齢単身者の急増により無縁死は年間3万人以上、認知症高齢者の行方不明は年間約1万6000人に上る。また、2025年には認知症高齢者が4人に1人という時代を迎える中、現在の社会システムでは高齢単身者への対応が難しくなっている。一方、高齢単身者の救急搬送を受け入れる医療機関では、迅速に検査や治療を始めなくてはならない状況にもかかわらず、家族を探して同意を得た上で検査や治療を行うことが求められるため、適切な医療提供の遅れや医療従事者の業務量の増加が課題となっている。
このような状況に対応するため、北原国際病院(東京都八王子市)を中核とする医療法人社団KNI、KNIと連携して会員制医療・生活支援サービスを運営する株式会社Kitahara Medical Strategies International(KMSI、同市)、日本電気株式会社(NEC)の3者は、救急搬送時における生体認証による本人確認や、治療や検査についての事前同意を含む患者情報を医療機関に提供するシステム「デジタルリビングウィル(DLW)」の実証を始めた。新しい技術やビジネスモデルを用いた事業活動を促進する政府の「新技術等実証制度」(規制のサンドボックス制度)の認定を受けて行う。期間は今年7月から来年6月末まで。医療分野で生体認証による本人確認を活用した実証計画の認定は初めて。実施場所はKMSIとKNIの他、同市内の医療機関1〜3カ所の参加も予定している。
対象は、KMSIがKNIと連携して昨年3月から運営している会員制医療・生活支援サービス「北原トータルライフサポート倶楽部」の会員と、救急搬送された会員以外の患者で生体認証データの検証が必要として依頼した方のうち同意した方。現在の会員数は約70人だが、DLWの提供開始により今年度中に会員数を300人まで拡大する計画だ。KMSIは治療に必要な約50項目の情報を患者の承諾を得て事前に取得、NECが構築したシステム基盤DLWに登録する。NECは患者が意識のない状況下でも本人確認ができる顔・指静脈・指紋を組み合わせた生体認証を提供する。KNIはKMSIから患者情報を取得、検査や治療を行う。
同倶楽部は登録された会員の意思情報・医療情報・生活情報を元に包括的な生活サポートを提供している。会員は加入時に自身の健康状態から想定される医療行為や突然の事故、病気の際の緊急処置など様々な状況に応じて、最も望ましい対応(検査や治療の承諾、延命治療の有無など)を登録しておくことで、実際に病気になった時などに協力医療機関での速やかな対応を受けることができる。
基本健診パックなどの医療・介護サービスに加え、オプションとして「医療相談(コンシェルジュ)サービス」「自費リハビリテーションサービス」「生活支援サービス」「終活サポートサービス」などがある。医療費などの支払いをキャッシュレスで行う「トータルライフサポート信託」も三井住友信託銀行の提供で利用できる。年会費6000円からで、DLWの利用も可能だ。
記者会見したKNIの北原茂実理事長は「このシステムに加入すれば、医療・介護サービスはもとより、生活支援サービスもワンストップで受けられる」と述べた。
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