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未来の会

「NP・PAの活用」で医師の負担軽減

「NP・PAの活用」で医師の負担軽減
医療機関全体の効率化も目指し、多職種を含めた業務移管を

医師の働き方改革が叫ばれる中、タスク・シェアリング(業務の共同化)やタスク・シフティング(業務の移管)の担い手として、看護師、とりわけ、その上位資格を有したナース・プラクティショナー(NP、仮称)制度創設にも高い関心が寄せられている。

 2019年3月にまとめられた厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」の報告書は、時間外労働の上限を2024年4月から適用し、一般の医師は年間960時間(月平均80時間に相当)と定めた。地域医療の維持に不可欠な病院医師と技術の向上が必要な研修医らについては、年間1860時間(月平均155時間に相当)を上限とする2035年度までの特例措置とした。

 医師の時間外労働の解消には業務の効率化が不可欠で、病院経営サイドの取り組みも重要だ。厚労省は医師のみならず、医療機関全体の効率化を目指し多職種も含めた勤務環境改善のためのタスク・シフティングを推進。「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフティングに関するヒアリング」を3回開催。第2回ヒアリングでは、日本外科学会など15の学会・団体が意見を表明した。

「医師でしかなしえない業務」に集中を

 急性期医療の要となる日本外科学会では、医師が現在担っている業務のうち、看護師に移管可能と考えられる14業務を挙げた。同学会では手術・治療情報データベースである「National Clinical Data base(NCD)」を運用しており、これに基づく他職種への移管状況を踏まえ、医師が「医師でしかなしえない業務」に集中することを求めている。

 具体的には、手術の際の手術部位(創部)の消毒やドレープがけ(現在の移管状況10%未満)、術後24時間以内の疼痛管理目的での麻薬性鎮痛薬の投与(同20〜30%)、定型的血液検査の指示入力(同20〜30%)などで、いずれも現行法の下で看護師が実施可能な行為だが、業務移管が十分進んでいない。

 また同学会は、移管した際に質を確保する対策として、看護師は特定行為研修などを受講して、手技の適応や内容について十分に理解することや、医療機関が当該行為を行う必要な条件を明確にした上で当該行為を行うのを許可することも挙げている。NCDはタスク・シフティングの効果の検証にも用いることができる。

 日本麻酔科学会は、現行法で看護師・薬剤師・臨床工学技士に移管が可能だが進んでいないものとして、9項目を挙げた。看護師への移管項目では①術前のオリエンテーション・リスク評価、麻酔に関する説明②術中の末梢点滴ルート確保、薬剤・薬液準備、バイタルサイン・処置記録、既設置ルートからの動脈採血と測定③術後のラウンド・術後疼痛管理である。

 第3回のヒアリングでは、日本看護協会(日看協)が医師から看護師への業務の移管を進めるための方策として①タイムリーに必要な検査を判断②薬剤を用いた療養上の世話をタイムリーに提供③NP制度の創設の3項目を挙げている。

 NPは米国などで制度化された資格で、「医師等の指示を受けずに、独自の判断で一定の医療行為を実施する」ことが認められている。カナダ、アイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ、シンガポールなどでも導入されており、制度創設の目的には、医師の供給が限られる中での医療へのアクセスの改善、ケアの質向上などがある。また、業務内容として、診断とヘルスアセスメント、検査の指示、治療の判断、医薬品の処方、患者の他の専門職への紹介などがある。

 資格要件は国により異なるが、例えば、看護師の資格や登録に加え、臨床経験、統一基準に基づき、認可された大学院修士課程の修了などが課されている。導入についてのエビデンスもあり、医師と同等もしくはそれ以上の質のケア提供、入院・再入院の減少、患者満足度の向上などが挙げられている。

先進諸国で進んでいるNP・PAの活用

 一方、フィジシャン・アシスタント(PA)が資格化されている国もあり、医師の監督の下に、診察、薬の処方、手術の補助など、医師が行う医療行為の相当程度をカバーできるようになっている。日本外科学会や日本麻酔科学会など諸学会は、先進諸国においてNPやPAの活用により医師の負担軽減が進んでいることを強調している。

 日本では日看協が先導し、先行する海外の例を参考に2008年から一部の大学院修士課程にNP教育課程が設置された。19年4月時点で10校の大学院にNP教育課程があり、修了者は約400人を超えた。

 NPを制度化するにはNP教育課程修了者の活動による効果や成果などを明らかにする必要があり、18年6月から19年3月にかけてエビデンスを集めるためのパイロット事業も実施。NP教育課程では、フィジカルアセスメント、病態生理学、臨床薬理学などの科目を設け、対象者の身体状況を的確に把握し、診断や治療を提案するプロセスも学習する。修了者は修得した知識や判断力を活かして看護を実践しているが、現行法の下では保健師助産師看護師法で定める看護師の業務範囲内で活動するよりない。

 試行事業では、病院、介護老人保健施設、訪問介護しステーションの6つの協力施設における活動成果として、訪問看護においては救急外来受診及び予定外入院の減少、老健ではポリファーマシーの改善や創部感染及び蜂窩織炎などの皮膚障害の施設外対応の減少が、さらに病院では外来における血糖管理への寄与、平均在院日数の短縮や退院割合の増加、ICU滞在日数の短縮などが示された。

 参加病院の1つ、国立病院機構長崎医療センター(長崎市)では、脳卒中による入院患者107人の平均在院日数は、医師群43.6日に対し、NP課程修了者群は30.1日となった。65歳以上の患者(69人)に限ると、医師群44.3日、NP修了群31.5日だった。また、107人の退院割合は医師群23.3%、NP修了者群50.6%。65歳以上の患者では医師群10.5%、修了者群44.0%となった。一方で、現在対応できない患者のニーズとして、タイムリーに原因を探る検査がなされず抗菌剤が使用されないことなど、課題も浮き彫りになった。

 NP制度化を支持する現場の医師の側からは、医師と看護師の双方の仕事に精通していて業務が円滑になることへの期待の声が聞こえる。病院の収益を支えているのは入院診療だが、医師が多忙で入院患者の対応が手薄になる時間帯があり、NPの存在価値はある。

 また、地域によって医師が十分に確保できない場合も、転勤の少ない看護師がNP資格を得て長期間活躍してもらえる可能性もある。入院医療の業務の一部がNPに移管されれば、新規採用しても医師ほど高給でなく、医師の負担軽減を支えられる可能性がある。

 タスク・シフティングのヒアリングで、日本医師会は新職種創設に反対を唱えているが、外科系を中心に学会から要望の多いNPやPAの導入への議論が今後本格化しそうだ。

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