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「女性差別入試問題」で順天堂大にも集団提訴

「女性差別入試問題」で順天堂大にも集団提訴
東京医科大は「地域枠」卒業生を付属病院に囲い込み

前号でもお伝えした医学部不正入試問題で、新たに順天堂大学に損害賠償を求める集団訴訟が東京地裁に起こされた。不正入試を巡る集団提訴は、一連の問題発覚のきっかけとなった東京医科大学に続き2例目。原告は2011年度から18年度に同大医学部を受験した元受験生計13人で、「性別というコントロールできない要素によって差別された」と訴えている。

 そんな中、文部科学省は女子や浪人生の差別が指摘された全大学の19年度入試は「公正かつ妥当な方法で実施された」と発表。来年度以降も「公正」な入試が続くのか、厳しくチェックしていく必要がある。

 全国紙の司法担当記者によると、集団訴訟を支援するのは東京医科大の集団訴訟と同じ弁護士グループ。原告13人の受験年度を見ると、11年度が1人、12年度が3人、13年度が1人、14年度が3人、15年度が4人、16年度が2人、17年度が3人、18年度が4人である(原告は13人だが、複数年度にまたがって受験した原告がいる)。全員が女性で多くは20代、東京医科大の訴訟に加わった原告も11人いる。他大医学部に進学したり他学部に進学したりした原告の他、現在は医師になっている原告もいるという。請求金額は1人当たり200万円の慰謝料などを含め計約4270万円だ。

「不正・不公平な選抜」に怒りと絶望

 原告側は訴状で、それぞれの原告が受験した年度の入試で女性の合格率が男性に比べて大きく下回っていることを列挙。「努力が成績という客観的基準で平等に評価されると信頼していたからこそ勉学に取り組んできた」と訴えた。加えて、同大医学部の募集要項の「入学者選抜の基本方針」に「学力試験のみならず、受験生の感性や医師・医学者となるべき人物・識見・教養を見極めるために、小論文試験、面接試験を課し、また小中高に至る活動を知る資料の提出により、総合的な判定に基づき、入学者を選抜します」と記載してあったことを挙げ、公正・公平な選抜が行われると思っていたのに裏切られたことに怒りと絶望を感じるとしている。大学は教育機関であり、そこで差別が長年行われてきたことを強く非難したのである。

 また、医学部の入試が同一日程で行われることが多い点にも注目。まさか差別されるとは思わず順天堂大を選んで受験したことで、他大学を受験するチャンスを失ったと訴えた。こうした精神的苦痛に対する慰謝料に加え、入試方法によって異なるものの医学部は受験料(入学検定料)が4万〜6万円と高額であることから、受験料や交通費の返還も求めている。

 順天堂大入試を巡っては昨年12月、女子と浪人の受験生を不利に扱っていたとする第三者委員会の「緊急第一次報告書」が出ている。第三者委はこうした差別が遅くとも08年度には始まっていたとしたが、詳細は未だ明らかにされていない。同大は17、18年度入試の2次試験で不合格となった男女48人に対して追加合格としたが、それ以前の不正入試で何人の受験生が不合格となったのかは分かっていないのである。

 「原告側は会見で、調査を早く進めて公表予定時期を示すよう求めた。元受験生の得点や成績が判明した場合は、慰謝料の増額も検討するそうだ。訴訟を起こされた以上、順天堂大としても調査を継続し、それなりの結果を示さざるを得ないだろう」(司法担当記者)。

 文科省によると、同大の19年度の合格率は女性が男性を逆転。18年度は男性の合格率が女性の倍だったことを考えれば、大幅に改善された。他にも女性差別を行っていたとされた東京医科大は女子の合格率が3%から20%に、北里大は11%から20%に改善。不正を認めていないものの、文科省から女性差別があったと指摘された聖マリアンナ医科大は女子合格率が5%から15%になった。

 「東京医科大では受験者数は前年の約3分の1となった。他に不正を指摘された各大学でも受験者が少なくなったため、女性だけでなく男性も合格率も上がっている。ただ、男女差は明らかになくなっており、数字だけ見れば不正は改善された」と文科省担当記者は話す。同記者によると、女性面接官を増やすなどの工夫も行われたという。

 女子受験生だけではない。浪人生への不利な扱いも減ったようだ。読売新聞が全国81大学に行った受験者と合格者の年齢調査(63校が回答)によると、3浪以上の受験生の合格率は18年度は5・66%だったが、19年度は8・34%と1・47倍になっていた。全体的に入試の公正さが増した印象だ。ただ、「女性医師が働きやすい環境づくりは未だ整えられていない。それをせずに女性医師が増えても、『やはり女性医師は使いづらい』『宿直ができない女性はいらない』と再び女性差別の動きが広がる可能性がある」(同記者)。

東京医大のルール違反の悪質さは各段

 そんな中、「卒業後」を巡る新たな疑惑も浮上した。茨城県の「地域枠」で入学した東京医科大卒業生が、同大付属の東京医科大病院に採用されていたことを毎日新聞が報じたのである。

 「地域枠は、医師偏在対策のために08年度に導入された制度。導入する大学は増え、現在の医学部定員の1割強は地域枠だ。地域枠で入学した学生は卒業から9年程度、各地域で勤務することで奨学金の返済が不要となる。自治医大の修学資金貸与制度のようなものだ」と解説するのは厚労省関係者。関係者によると、今春医学部を地域枠で卒業した新人医師は879人いたが、このうち地域での勤務を拒否したのは5人だけだった。

 「うち2人が東京医大の卒業生で、さらにこのうちの1人は同大の付属病院に採用された。要は地域枠の学生を付属病院が囲い込んだ格好になったのです」(関係者)。

 地域枠で入学しておきながら、本人がその地域での採用を拒否すること自体は仕方がない面がある。職業や勤務先が選べないのであれば、憲法違反になりかねない。そのため、地域で勤務しない場合は奨学金を返済する決まりがある。ただ、地域枠の学生を使って自分のところの医師を確保するのは明らかにルール違反だ。「医学部の定員は国に決められていて増やせないのに、地域枠を利用してそれを増やしたことになる」(同)からだ。

 東京医科大をはじめとする各医学部の入試不正問題の背後には「医学部は入学がイコール採用試験である」という問題があった。他学部では卒業生の進路は様々だが、医学部は卒業生の多くが付属病院で働く。そのための「労働力」として、夜勤がこなせる若い(浪人回数が少ない)男性を優遇したと指摘されているのだ。

 この上、地域枠まで利用して付属病院の医師を確保していたとなれば、ルール違反の悪質さは格段に増す。厚労省は事態を受け補助金を減額するとしているが、医学部の学生を「労働力」ととらえる大学の姿勢を改めなければ、この問題も女性差別も繰り返されるだろう。

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