MRの病院訪問規制で予約仲介会社まで登場
かつては医師への自社製品売り込みで激しい競争を繰り広げていた製薬会社のMR(医薬情報担当者)だが、2014年をピーク(6万5752人)に減少傾向にある。
MR認定センターによると、18年3月末時点のMR数は6万2433人。この4年間で約3300人減少したことになる。
12年に過剰接待が製薬業界内で禁止されたが、14年にノバルティス日本法人社員が統計解析者として関与した利益相反問題・ディオバン事件が発覚した。製薬会社72社が加盟する日本製薬工業協会(日製協)は昨年、11年に策定した「企業活動と医療機関等の関係の透明性ガイドライン」を改定した。また、厚生労働省は今年4月、「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」を施行、製薬会社による不適切な情報提供活動に対して規制に乗り出した。
MRへの風当たりが強くなるだけでなく、新薬が生まれにくくなっている中、各製薬会社はMRの採用数を絞ったり、希望退職者を募ったりしている。
MRの現状はどうなっているのか。現職のMRに話を聞いた。仮にA氏とする。A氏は30代で、外資系製薬会社に2社勤務し、MR歴は計約15年になる。現在はMRを統括する立場にある。
MRが医師の代わりに学会資格更新
まず、規制が強化される以前の医師とMRの関係について聞いた。
A氏によると、院内の蛍光灯の取り替えや医師の趣味であるプラモデルのパーツの購入など、医薬情報の提供とは関係ない依頼も少なからずあった。中には、学会資格の更新に行く都合がつかない医師のために、受付で代わりにサインをして更新料を払ったこともあったという。今では、そこまで露骨な医師の依頼は少なくなっているようだ。
医師への接待はどうか。A氏は「オフィシャルにはお金を出さない、接待してはいけないという製薬会社が増えており、業界では縮小している。以前と比べて現在は5%ぐらいでは」と話す。接待を行う場合、MRの自腹だったり、会社が認めても以前は単価2万円だったものが5000円ほどに下がったりしている。
ただ、特殊な条件で接待を認める製薬会社もあるという。例えば、医師に依頼した講演会の終了後、「慰労」名目で単価1万〜2万円の会食を設定できるという。
講演に関しては、A氏の会社では1人の医師に対し年間350万円以上の支払い、年間36回以上の依頼は禁止されている。金額に関しては、教授クラスが1時間10万〜15万円、准教授や病院部長クラスが同7万円、それ以外は5万円だという。
また、講演資料が膨大になったり、地方講演で1日拘束になったりする場合は〝色を付ける〟ことがある。医師から依頼があれば資料作成の手伝いもするが、あくまでも社内規定に則ったデータ提供などを行っているという。
製薬会社だけでなく、病院側のコンプライアンス(法令遵守)も厳しくなっている中、医師へアポを入れるためのシステムをビジネスにしている会社も出てきた。Dr. JOY株式会社」(東京)だ。ホームページなどによると、13年に設立して16年にサービスを開始。資本金・資本準備金等は約22億8000万円。社長の石松宏章氏は医師でもある。今年2月現在で大学病院など1919の病院が導入を決め、製薬会社など医療関連企業1895社、約5万3000万人が利用している。
同社はこのサービスが院内セキュリティの強化にも役立つとしているが、A氏には疑問点もあるという。1つは、MRと医師がお互いのメールアドレスを既に知っている場合、直接やり取りができるので、このシステムを介したアポ入れの必要がないこと。それでも病院側が導入するのは、勤務医の行動を疑っていることを意味し、逆に勤務医の不信を招いている面もあるという。
2つ目は、MRが入退館カードを作るのに5000円もかかる点だ。「約5万3000万人も利用しているのなら、Dr. JOYは相当儲けているのでは」とA氏は皮肉る。
MRにとって都合の悪い医師の対応についても聞いてみた。「診療分野に強みのある医師の中には、我々の期待に応えてくれない人もいる」とA氏。
例えば、高血圧の薬は各社から複数出ているため、医師にとっては選択肢が多い。各製薬会社は高血圧患者の多い病院の医師を対象に講演会を依頼する。製薬会社にとって講演会は聴衆に対して自社製品の刷り込みを行う場であり、医師がその講師を引き受けたということは、その後自社製品を使ってもらえるという期待を持つ。ところが、医師は講演の謝金だけ受け取って、結局どの製薬会社の薬も使わないケースがあるという。
これはどういうことなのか。A氏は「医師にとって講師を引き受けたからといって、その製薬会社の薬を選んでしまったら癒着になってしまう。各社にいい顔をして講師を務めるが、使う薬は自分のポリシーに従う、ということ」と説明する。MRにとってはつらいだろうが、患者にとっては望ましいことだろう。
患者利益無視の「調査という名の癒着」
画期的新薬(ピカ新)が出にくくなっている中、製品で他社と差別化できないとなると、営業力で差別化せざるを得ないのが実情だ。医師への講師依頼もその1つ。しかし、場合によっては医師と製薬会社の癒着に繋がる。
A氏はさらに「調査という名の癒着」を挙げる。「製薬会社が臨床研究の調査費用を出し、医師にはお金が入る。医師は薬の効果を報告し、製薬会社は薬の売り上げが上がるというウィンウィンの関係。規制やガイドラインができても、この関係はなくならないだろう」。
その結果、B社の薬がC社の薬より効果があっても、C社から調査費用を支払われた病院はC社の薬を使う。こんなことでは、医師や病院側の倫理感も疑われる。
A氏は「MRにとって医師は営業対象なので、スタート時点で及び腰になってしまうと、クリーンな活動ができなかったり、相手の考えに反したことも言えなかったりする」と打ち明ける。
製薬会社は社員研修で「これからはサイエンスの時代。クリーンな活動で先生達の考えを変えてこい」と言う。採用されるMRも高学歴化、少数精鋭化している。しかし、エビデンスに基づいたロジカルな医薬情報の提供より、なにがしかの便宜を求める医師も少なくない。そのような医師を相手に現場で壁にぶつかるMRが上司に相談しても「お前の力が足りないからだ」と突き放されてしまう。医師と会社の板挟みの中で「“微妙な活動”に手を付けるMRが出てくる」とA氏は打ち明ける。
「癒着の構造」を崩す1つの策として、第三者機関が製薬会社の研究内容を審査し、適切な医療機関に研究を依頼、基金を通して資金を支払う方式が考えられよう。
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