自らの経験から、歯の咬み合わせが狂うことで全身に様々な症状が起きやすくなることに気付いた。それから咬み合わせ治療に取り組み、今年で29年目を迎える。評判を聞きつけて遠隔地から通ってくる患者も多い。一方、学会や同業の開業医などからはなかなか理解を得られないという。咬合と心身の不調の関連について、加藤歯科医院の加藤和子院長に話を聞いた。
——加藤歯科医院の特徴についてお伺いします。
加藤 歯列不正で咬み合わせが狂ったり、義歯が合っていなかったりするなど、歯の咬み合わせが狂うと頭痛や肩こり、腰痛など体に様々な症状が起きやすくなります。歯の咬み合わせを正しくすることで、体の症状を治めることを主な仕事にしています。
——虫歯の治療はしないのですか。
加藤 虫歯や歯の根の治療など何でもやります。ただ、私は歯の修理屋にはなりたくなかったので、歯の治療を通して体を良い状態にすることを目標にしてきました。そうなると診療に時間がかかります。当院は完全予約制ですので、患者さんには治療時間を、治療内容によっては1時間以上で予約を取っていただいております。自由診療が約6割と多くなりますが、採算は合いません。損得抜きで取り組まないと、この仕事はできないのです。
——院内の体制は?
加藤 歯科医は私1人です。私の片腕ともいえる常勤の歯科技工士1名、歯科衛生士1名、非常勤の歯科衛生士1名、アシスタント1名の計4人です。いずれも20年以上も勤めてくれているんですよ。プロフェッショナルで丁寧な仕事をしてくれるので、大変助かっています。
——患者は地元の方が多いのですか。
加藤 7割は地元の方ではありません。東京や横浜、静岡や山梨、遠くは奄美大島から通ってくる方もいます。以前からの患者さんやその家族の方、患者さんから紹介された方々です。「私の歯は加藤先生でなければ治らない」と言ってくださる方もいて、有り難いですね。遠方の患者さんにはある程度まとまった時間をかけて診療を行うので、ホテルに宿泊してもらって、そこから来院していただき、1日から2日、集中的に治療することがあります。
——そもそも歯科医を目指した理由は何ですか。
加藤 父は歯科医でしたが、私が6人兄弟の末っ子だったこともあり、短大に進学して嫁に行ってほしいと言われていました。私もその通りにしようと考えていましたが、短大に学びたいことがありませんでしたので何をしようかと考えた時、父の背中を見ていたので歯科医しか思い浮かびませんでした。
——咬み合わせ治療に取り組むようになったきっかけは?
加藤 昭和43年(1968年)に千葉県船橋市内に開業し、子育てをしながら仕事に追われる中、自分の歯が割れたり下の歯が右にずれたりしました。しかし、夫や兄弟、甥達が歯科医なのでいつでも治療できると考え、自分の歯を大事にしてきませんでした。そのうち右の肩にひどい凝りができ、週3回ぐらい整体や針治療に行くようになりました。そのような中、昭和60年(85年)頃、咬み合わせの話を都内で聞く機会がありました。この凝りは咬み合わせが原因ではないかと気付き、自分で自分の歯を治療し咬み合わせを正しくしたら、凝りも治まったのです。びっくりしました。咬み合わせを無視した歯の治療をしたらかえって咬み合わせを崩し新たに患者を作りかねないと考え、平成2年(90年)から本格的に咬み合わせの治療に取り組むことにしました。自らの体験から気付かされたこの仕事は、私の天命だと思っています。
咬み合わせは「体の中の杖」
——具体的にはどのように診ていくのですか。
加藤 まず、患者さんの上下の歯の型を取って石膏模型を作ります。その模型から咬み合わせの現状や本来の正中線の位置を読み込み、姿勢や体の症状を参考に診断していきます。そして、歯を正しい位置に持って行くのです。位置を正すには技術が必要です。当院には20年以上勤める歯科技工士がいるので、私の指示に従い、その位置に補綴物を製作します。ただ、口の中は神経や血管、筋肉が錯綜しているため、想定通りには動きません。口腔内で実際に顎を動かしながら咬み合わせを調整する技術と時間が必要なのです。
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