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難病の診療で存在感を発揮する大学病院 ~病床稼働率90%、在院日数10日を目指す~

難病の診療で存在感を発揮する大学病院 ~病床稼働率90%、在院日数10日を目指す~
大川 淳(おおかわ・あつし)1957年埼玉県生まれ。82年東京医科歯科大学医学部卒業。同年同大学医学部附属病院整形外科研修医。86年九段坂病院整形外科医員。93年東京医科歯科大学医学部整形外科助手。98年諏訪中央病院整形外科主任医長。2001年東京医科歯科大学医学部整形外科講師。03年同大学医学部附属病院総合診療部助教授。07年同大学大学院臨床医学教育開発学准教授。09年同大学大学院整形外科学准教授。11年東京医科歯科大学医学部整形外科教授。13年同大学医学部附属病院副病院長。16年同病院長。厚生労働省難治性疾患政策研究事業「靭帯骨化症調査研究班」班長。専門は脊椎脊髄外科。

病床数など病院の規模では近隣の大学病院にかなわないが、難病に対する診療のレベルの高さや、救命救急センターの優れた業績などで存在感を発揮する東京医科歯科大学医学部附属病院。大学病院にありがちな縦割り構造を改革して病院機能の効率化を図り、大学病院としてはトップレベルの病床稼働率を実現している。また、臨床研修病院として高い人気を誇り、研修希望者数も全国1位だという。


——国立大学病院長会議が「働き方改革に関する緊急提言」を出しています。ポイントは?

大川 大学病院で働く教員にとっては、診療だけではなく、教育と研究という仕事もあります。国立大学の教員なら、それが公務なわけです。ところが、診療に大変な時間が割かれている中で、教育や研究に対しては、十分な配慮がなされていない可能性があります。そこで、診療と同じように、教育や研究もしっかり評価する必要があるのではないか、ということなのです。一般の病院なら診療が労働のほとんど全てだと思いますが、大学病院ではそうはいきません。実際にどのような時間になっているのか、せめてその把握は必要でしょう。

——データはないのですか。

大川 いろいろ試みてはいるのですが、結局のところ、どこまでが研究で、どこからが診療なのかというと、はっきりしないのです。我々が大学に来てから帰るまでというのは、単一の仕事をしているわけではありません。診療も教育も研究も混然一体となっています。国立大学病院長会議会長の山本修一先生(千葉大学医学部附属病院病院長)は「モザイク状」と表現していますが、まさにそういう状態になっていますから、実態把握は簡単ではありません。また、診療科による違いがあるかもしれませんし、教員のポジションによってもだいぶ違うでしょう。若い人は診療がメインになることが多いでしょうが、講師以上になると、教育や研究の比率が増えてくると思います。

従来から難病の診療が得意だった

——先生の働き方改革に関する考えは?

大川 私個人としては、大学に来てから帰るまでの全体が勤務時間である、と捉えるべきだと考えています。自己研鑽という言葉は非常に曖昧です。大学病院の医師としては、それも当然必要な部分であると思います。従って、自己研鑽とされている部分も含めて、ある程度は勤務時間として勘案すべきと思っています。

——タスクシフト(業務移管)や看護師の特定行為研修による支出増への財政支援も求めていますね。

大川 例えば特定行為研修を行うと、研修に参加する看護師はその間は看護業務につけませんから、その穴埋めに新たに看護師を雇用しなければなりません。また、研修を行う大学病院では、教員の仕事も増えることになります。その辺りについて考えていただきたいということです。

——国立大学病院長会議が一般法人化したそうですが、その狙いは?

大川 社会的に信頼性を得られるようにし、発信力を高めていこうということだと思います。また、日本病院団体協議会の会員条件に法人格が求められているというのも、理由の1つです。

——病院についてうかがいますが、患者さんはどの辺りから来ているのですか。

大川 当院は、2次医療圏では東京・区中央部に入っています。この医療圏は非常に特殊で、大学病院の本院が5つもあるのです。こんな2次医療圏は日本中を探してもないわけで、当然のことながら、地域医療構想は他府県と異なる形にならざるを得ません。当院の約半数の患者さんは、東京都の東部から来ています。足立区、葛飾区、墨田区、江東区、江戸川区などで、こちら方面には大学病院があまりありません。

——病院の特徴は?

大川 大学病院が密集する地域にあります。特に当院の場合、すぐ隣が順天堂大学医学部附属順天堂医院ですし、裏には東京大学医学部附属病院があります。共に1000床を超える大病院です。当院は753床で、もちろん大きな病院ではありますが、単純に規模を比べたら劣っているわけです。そこで、数を追及しても勝ち目はなさそうなので、質であるとか、効率性であるとか、別の方向性を持った病院にシフトしていく必要があると考えています。

——どのような方向に?

大川 従来から、当院はいわゆる難病の診療を得意としてきました。そこで、難病を得意とする大学病院というのを、1つの目指すべき方向にしたいと思っています。

——難病治療部という部署があるのですね。

大川 元々各診療科に得意とする難病があったわけですが、それをひとまとめにして難病治療部としたわけです。「膠原病・リウマチ」「潰瘍性大腸炎・クローン病」「神経難病」「腎・膀胱・前立腺がん」「頭頸部・頭蓋底腫瘍」の先端治療を行う各センターを作り、難病の診療を行っています。現在はインターネットの時代ですから、難病の患者さんが検索すると、当院の情報に行き着くことが多いようです。そういうこともあって、難病の患者さんは広い範囲から来院されています。

縦割りを壊して効率化を図る

——最先端の医療に取り組んでいるわけですが、最近のトピックは?

大川 潰瘍性大腸炎に対して、患者の大腸から採取した腸上皮幹細胞を体外で培養して増殖させ、それを患部に移植するという治療の研究が進められています。いよいよ臨床試験が始まる段階まで来ました。患者数が急増している難病ですから、大いに期待されています。また、iPS細胞を使って肝臓の難病を再現することにも成功していて、これは肝疾患の病態解明に役立つと期待されています。現在力を入れているのは、やはりがんゲノム医療ですね。この1年ほど、厚生労働省が急速に力を入れ始めていますので、当院でも積極的に取り組んでいます。がんゲノム医療連携病院として、専門家が話し合って治療法を決定するエキスパートパネルを月に3回くらい開いています。

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