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未来の会

「AI+アクチュエータ」の可能性に注目

「AI+アクチュエータ」の可能性に注目
AIを活用しつつ人間が総合判断する仕組みづくりを

横浜市で4月に開催された「JRC2019合同企画 合同特別講演」で、東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター/技術経営戦略学専攻の松尾豊教授が登壇、「人工知能の進展と医療・ヘルスケアにおける可能性」とのテーマでスピーチを行った。

 近年、ディープラーニング(深層学習)の進化は著しい。この技術については、3つの適用領域が注目されている。松尾氏は「ディープラーニングにも長所と短所があります。長所は画像認識と運動の習熟、言葉の意味理解。これらの分野では、様々な事例が報告されています」と説明する。ディープラーニングは医学の分野にも入り込んでいる。例えば、たんぱく質の3次元構造の推定。従来は難問とされていたが、分子間の距離や角度をAI(人工知能)が推定し、高い精度でその3次元構造を導き出すという。

 ディープラーニングによる画像認識は急速に進化しており、既に人間を上回る精度を達成している。CT画像の読影など、医療分野への導入が進みつつある。この技術を使えば、物体検出もできる。画像の中のある領域を四角で囲み、それが人なのか自動車なのかを分類するといったことが可能だ。

 「私は、ディープラーニングを『目の誕生』にたとえることがあります。ロボットなどの機械が目を持つことにより、実行可能なタスクが大きく広がる。農業や建設、食などの様々な分野に、目を持つロボットが導入されるようになるでしょう」と松尾氏は言う。

 例えば、部品をピックアップして所定の場所にはめ込むという工程に、ロボットを導入するとしよう。作業を繰り返すうちに、ロボットは着実に習熟度を上げていく。工程によっては熟練者に匹敵、またはそれを上回るレベルに達するケースもあるだろう。工事現場などでは、安全確保のために“目”を持つロボットに任せるというケースも増えそうだ。

 「今後は、画像認識とアクチュエータ(エネルギーを運動に変換するもの)を組み合わせた技術がさらに発展します。医療分野においては、適用可能な場面が少なくないように思います」と松尾氏。

 特に医療では、こうした技術の導入が早い時期に進むというのが松尾氏の見立てだ。医療系の画像とディープラーニングの相性の良さ、社会的・産業的な観点で医療の重要性が理解されていることなどが理由である。こうした認識が広がっているからだろう、スタートアップを含めた世界中の企業が医療へのAI活用に向けた研究開発を加速させている。

 ただし、医療におけるAI活用には注意すべき点もある。

 「ディープラーニング技術を使って、医師以上の精度を出せる業務は少なくないと思います。ただ、医師が見ているのは画像やデータだけではありません。患者の様子などを含めて様々な要素を総合的に見て判断します。こうした総合判断では、人間が非常に高い能力を発揮します。医療分野においては、AIが導いた結果を活用しながら、人間が総合判断を下すような仕組みが不可欠です。日本の医療界は関連分野の人達と一緒に、こうした仕組みづくりに向けスピード感を持って取り組むべきだと思います」

 そう話して、松尾氏はスピーチを終えた。実践的なAI活用モデルの構築に向け、日本の医療関係者に対する松尾氏の期待は大きい。

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