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「精神保健指定医」不正取得問題で医師側が初勝訴

「精神保健指定医」不正取得問題で医師側が初勝訴
形式的な判断ではなく、総合的な検討を踏まえた判決に

精神保健指定医の資格不正取得問題で、新しい動きがあった。資格取り消し処分を受けた田沼龍太郎医師が国を相手に処分取り消しを求めた訴訟で、東京地方裁判所は5月15日、処分が違法であるとして取り消しを命じた。同様の訴訟は10件以上あるが、医師側の勝訴は初めて。

 精神保健指定医の資格不正取得問題は聖マリアンナ医科大学病院で2015年に不正取得が発覚、厚生労働省による全国調査に発展した。89人が2016年に精神保健指定医を取り消され、行政処分も受けた。厚労省は行政処分の対象者に関する考え方として、ケースレポートに係る症例の診療録の記載が①全くない②週1回未満——などを示している。

 田沼医師は16年10月、指定申請時に提出したケースレポート8症例のうちの1つが「自ら担当として診断または治療に十分な関わりを持ったもの」と認められず、「不正なケースレポートの作成」として、厚生労働省から指定取り消し処分を受けた。田沼医師は同年、国を相手に資格取り消し処分の取り消しを求める訴訟を東京地裁に起こした。

 国は、医師が自ら担当として診断または治療に十分な関わりを持ったか否かは、原則として診療録の記載内容から判断するべきと主張した。

 しかし判決では、①診療録は診療の事実を認定する際の最良の証拠ではあるが、氏名の記載がない医師は診療に関与していない、あるいは記載のない診療行為は行われていないとは直ちには認められない②診療録に医師の氏名や行った診療行為が記載されている場合でなければその症例をケースレポートとして提出してはならないなどのルールが定められていたとは認められない、と指摘。

 田沼医師が勤めていた精神科病棟では、精神科10年目以上の医師が務める「主治医」、精神科3〜4年目以上の医師が務める「指導医」(指定医事務取扱要領の「指導医」とは異なる)、精神科1〜2年目の医師や初期研修医が務める「受持医」から成るチームで診療を行っていた。

 判決では、指導医だった田沼医師の指示を受けながら受持医が診療録への記載を行うことは不自然・不合理ではなく、診療録に田沼医師の氏名などの記載がないという一事をもって診療を行っていないとは言えないと指摘した。また、具体的な診療の状況など他の証拠を含め総合的に検討する必要があると判示。「厚労大臣の判断は裁量判断の前提となる事実の基礎を欠く」「裁量権の範囲を逸脱しまたこれを乱用した」と断じた。

 5月17日に記者会見した田沼医師の代理人弁護士は「診療録の記載の有無及び回数のみから形式的に判断するのではなく、当該症例がなされた病院の診療体制、チーム診療体制下における診療録の記載方法、具体的な診療内容を検討した上で、診療録に記録がなくても、原告が症例の診断または治療に十分関わっていた旨認定した」と判決の意義を述べた。

 厚労省は不正取得の再発防止や資質確保のため、ケースレポートの見直しや指導医の要件の見直し、口頭試問の導入などを行う。今年7月以降の新規申請から適用する。

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