改元から1カ月、奉祝ムードも一段落し、令和時代が馴染んできた。国会は終盤を迎え、与野党は衆参ダブル選挙も念頭に選挙準備を急いでいるが、実は6月下旬、令和の外交の試金石とも言える国際会議が大阪市で開かれる。米中露の指導者と安倍晋三首相との個別会談が予定される主要20カ国・地域(G20)首脳会議だ。北朝鮮の非核化、北方領土問題、日米貿易交渉など、日本が今後、クリアしていかなければならない重要案件がぎっしりと詰まっているからだ。
習国家主席の初来日と世論の行方
「就任後6年にして、初の来日となる中国の習近平・国家主席が眼目だろうな。安倍首相との首脳会談はもちろんのこと、日本国民が習主席をどう迎えるのか。米中の覇権争いの中で、日本はどうあるべきなのか。令和時代の外交の基盤、そこが問われるんじゃないか」
中国に知己の多い自民党幹部はG20首脳会議の肝は日中関係にあるとみている。気になるのは両国の世論だという。
「世論調査で中国の好感度は低迷し続けている。南シナ海などでの強引な行動が原因だろうが、中国に少しでも理解を示せば、〝媚中派〟のレッテルを貼って拒否するような異常な感覚が日本国内にまん延している。中国も同様のようだ。日本に好意を示せば、たちまち反発を食らう。こうした不正常な空気を払拭する機会になれば、半分は成功だな」
随分とハードルを下げたものだが、この自民党幹部は「米国一辺倒では危うい局面がこの先、絶対に訪れる。安倍首相の欧州歴訪もそうした考えの表れだろう。蜜月とまではいかなくても、確かな足掛かりを中国に築いて置くことが肝要だ」と強調する。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の国際フォーラムに出席した自民党の二階俊博・幹事長が習主席に対し、「G20大阪会議以後に改めて国賓として招きたい」と訪日要請したのも、この流れの一環だろう。
残る半分は、北朝鮮問題を巡る日中連携の模索や、北方領土問題での進展にあるが、これらは、なかなか容易ではないという。
まずは、北朝鮮問題だ。ベトナム・ハノイでの第2回米朝首脳会談決裂後、「交渉の窓口は開いている」(米国・トランプ大統領)とは言いながら、米朝の歩み寄りはなく、停滞を余儀なくされている。焦れた北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が取った行動は、歴史的友好国・ロシアへの接近だった。4月25日に行われた露朝首脳会談で、金委員長はロシアのプーチン大統領に「非核化の前提として体制の保証が必要だ」と打ち明け、これをプーチン大統領が記者会見で世界に発信した。
日本の外交筋は、判然としないメッセージと受け取った。
「北朝鮮が、従来の『終戦宣言』と『制裁解除』を求める方針を転換し、『体制保証』に切り替えるということなのだろうが、それは問題をこじらせるだけだ。何が狙いなのか吟味しないといけない」
体制保証は幅広い概念だ。その核心は軍事にあり、在韓米軍の駐留から国連軍司令部の問題、さらには米国の核の傘問題までと交渉テーマは無限に広がる。東アジア地域の安全保障にもかかわる問題だから、米朝会談というバイ(1対1)の交渉を逸脱する可能性すらあるのだ。
「金委員長が本気で体制保証を求める交渉にシフトしようと考えているのなら、状況は今より確実に悪化する。ロシアを使って、米国にシグナルを送っただけにしか見えない。ただ、プーチン大統領が露朝首脳会談の直後に訪中し、習主席との首脳会談で合意したところをみると、本当の狙いは、米国と北朝鮮とのバイの交渉から、中国、ロシアなども交えたマルチの交渉へのスキームチェンジなのかもしれない。しかし、これに米国が応じるとは到底思えない」
外交筋の指摘通り、米国のボルトン・大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は「北朝鮮問題で、過去の6カ国協議のアプローチは失敗している」と多国間交渉に否定的な考えを示した。ボルトン補佐官は「段階的なアプローチを試みた過去の政策は全て失敗した」と付け加え、従来の交渉方針が揺るがないことを強調した。
こうしてみると、北朝鮮のロシア抱き込み作戦は話題の提供だけで終わったようにも見える。ただ、外交巧者として知られるロシアが米国の思惑を知らないで動いたとも思えない。
自民党幹部が語る。
「ロシアの狙いは、クリミア併合以降、険悪になってしまった米国との交渉のツールを得ることだろう。北朝鮮も同じだ。韓国・中国ルートで失敗したから、今度は、ロシア・中国ルートで解決の糸口を探しているのさ。米国もそれは重々承知だが、ロシアと中国から誘いをかけられて、完全無視というわけにもいかない。経済問題とか、他にもいろいろ懸案があるからね。当面の膠着状態をほぐす契機にはなるということだよ。外交は小さな一事で大きく揺れることがある。侮ってはいけない」
露朝首脳会談・中露首脳会談と同時進行するように、安倍首相は4月26日、トランプ大統領と首脳会談を行っている。日米両国が確認したのは「北朝鮮の制裁継続方針」だった。日米首脳会談は5月下旬、そしてG20大阪会議のある6月下旬にも行われる。3カ月連続の首脳会談は異例だ。強固な日米関係を世界に示すことは外交上、メリットはあるが、当然、リスクも伴う。
北方領土問題の解決に道筋?
政府関係者が指摘する。
「韓国のメディアなどで散見されるが、北朝鮮問題を『中露VS日米』という敵対構造に置き換える風潮が出てくるのはマイナスだ。欧州などの誤解を招く恐れがあるからだ。たぶん、それが、北朝鮮の狙いだろう。日露には大事な北方領土問題があるし、日中にも諸課題が山積している。マルチの交渉に持ち込まれれば、やっかいだ。当事者はあくまで米朝であることをはっきりさせる一方で、中国、ロシアとの連携の道筋を探らなければならない」
多くの国の利害がからむ外交は難儀なしろものだが、安倍首相の周辺は夢の実現にも期待を寄せている。日露首脳会談で北方領土問題解決の道筋を付けるというのがそれだ。
「3カ月連続の日米首脳会談の中身はベールに包まれている。日露、米露関係が話題になっても不思議じゃない。険悪な米露の橋渡しができるのは今や安倍首相だけだ。驚くような展開だってあり得る」
G20大阪会議での日米首脳会談について、自民党内には「トランプ大統領が来年の大統領選での集票にらみで米農産品の関税撤廃など厳しい要求を突きつけてくるのではないか」との警戒感もある。もし、そうなれば、参院選を控えた自民党は窮地に陥る。令和時代の外交は、蜜月も一転危機の引き金に変わる難しい交渉から始まりそうだ。
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