C型肝炎ウイルスに対する直接作用型の抗ウイルス剤(DAA)がソホスブビルやレジパスビルなどをはじめ多数開発され、C型慢性肝炎やC型代償性肝硬変において、持続ウイルス陰性化が達成できるようになってきた。
しかも、最近販売が開始されたソホスブビル+ベルパタスビル(エプクルーサ)では、他のDAAが無効例だけでなく、非代償性肝硬変にまで適応が拡大されるようになった。
それに伴い、DAAを開始した糖尿病患者に、低血糖が生じたことが複数報告されている。
薬のチェックでは、83号において、国立医薬品食品衛生研究所が発行する「医薬品安全性情報」から、海外の規制当局の害反応情報1)を紹介するとともに、エプクルーサの評価結果2)においても、DAAによる低血糖リスクについて取り上げたので、概略を紹介する。
英国規制当局(MHRA)の情報
C型肝炎ウイルスの持続陰性化が達成された例では、無効例や再発例よりも血糖値の低下傾向が示され、多くの場合DAAの開始後3か月以内に起こっている。
C型肝炎ウイルス量の急激な減少とともに糖代謝が改善され、血糖降下剤の変更が必要となった。最大30%の患者で用量調整を要したとの報告もある。
HCV除去による糖代謝改善の結果
薬のチェック編集委員会は、以下のようなコメントを加えた2)。
C型肝炎ウイルスはコレステロール低下剤のロミタピド3)と同様、肝細胞内でMTP(ミクロソーム・トリグリセリド輸送タンパク)を阻害し、トリグリセリドの利用を妨げ、脂肪肝を生じる。
その結果、肝細胞機能を悪化させると同時に、糖代謝を悪化させる4)。DAAによりウイルスが陰性化すると糖代謝が改善する。
従って、血糖値のモニタリングと血糖降下剤の用量調整が必須である。
DAAは生命予後を改善
DAAは、90%以上の持続ウイルス陰性化(SVR)を達成するため、プラセボ対照群を設けたランダム化比較試験(RCT)が実施されずに有効と評価された。従って、並行してプラセボとの長期効果の比較は不可能である。
しかしながら、最近の研究で、肝硬変に合併した早期肝臓がん手術例を対象にDAA使用群(2015〜2018年手術例)と、背景因子の傾向スコアをマッチさせたDAA不使用群(2007〜2015年手術例)を比較し、非代償性肝硬変への移行を抑制し(ハザード比0.32、95%CI:0.13-0.84、p=0.02)、寿命を延長していた(総死亡ハザード比0.39、95%CI:0.17-0.91、p=0.03)。
肝細胞がんの再発は有意ではなかったが、減少傾向があった(ハザード比0.70、95%CI:0.44-1.13、p=0.15)。
RCTではなく、コホート研究だが、少し前の手術例と重要な背景因子を非常によくマッチさせていること、DAAによりウイルスが消失し、肝細胞機能の改善にともない糖代謝が改善していることなどから、この結果は信頼できると考えられる。
参考文献
1)薬のチェック2019:19(83):66
2)薬のチェック2019:19(83):52-54
3) 浜六郎ほか、薬のチェックTIP、2018;18 (78):82.
4)Cabibbo G et al. J Hepatol. 2019 Apr 5. PMID: 30959157
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