政府は6月にまとめる2019年度の経済財政運営の基本方針(骨太の方針2019)の策定作業を本格化させている。夏の参院選の直前とあって、柱は「デジタル政府の推進」や「就職氷河期世代の支援」で、社会保障費の抑制策は骨太の方針2020に先送りする。
ただ、国民に痛みを強いる政策を選挙後に実現できるか否かは、時の政権の安定度に左右される。参院選で与党が大敗すれば想定が崩れかねず、厚生労働省の面々は一様に、閣僚辞任などで揺れる安倍政権の行方を不安な思いで見つめている。
「やらなきゃいけないことは山積みなんだけど。選挙の年は仕方ないよね」。厚労省幹部はそう言って苦笑いする。「やらなきゃいけない」と考えている項目の筆頭は公的医療保険制度の見直しだ。75歳以上の人の自己負担割合(原則1割)を2割にアップすることや、保険を適用する薬の絞り込みが主眼となる。オプジーボなど高額な免疫治療薬の登場が背景にある。
それでも、昨年の早いうちに与党や首相官邸サイドから「負担増の話は2019年参院選の後だ」とクギを刺されていたこともあり、今年の骨太の方針に社会保障費カットを盛り込むことについては財務省ともども早々に諦めていた。
昨年5月、厚労省などが公表した40年度の社会保障費は推計で約190兆円。いまより68兆円伸びる計算だ。にもかかわらず、同省があっさり社会保障費抑制策の提示を1年遅らせることを受け入れたのは、官邸との力関係だけではない。19〜21年度は75歳以上の人口の増加率が0・5〜2・9%にとどまり、ただちに医療費が急増する状況にないという事情がある。
こうしたこともあり、厚労省が年内に仕上げるつもりなのは、60〜70歳となっている年金の受給開始年齢の上限を75歳に引き上げることや、65歳以上の雇用を70歳まで継続することなどだ。「負担増」や「サービスへの切り込み」ではない。国民に痛みを強いる政策に関しては20年のうちに具体化させ、21年度の通常国会に関連法案を提出する腹づもりでいる。
とはいえ、ベビーブームだった1947〜49年度生まれ(団塊の世代)は25年には全員が75歳以上となる。この世代は22年から75歳を迎え始めるため、22〜24年度の75歳以上の人口は3・9〜4・2%増と大幅に増える。医療費もこれに沿って大きく伸びる見通しだ。そのためにも財務、厚労両省は2020年を「社会保障費抑制を打ち出す年」と位置付ける構えでいる。
ただ、数々の不祥事を乗り越えてきた安倍政権も、塚田一郎・前国土交通副大臣、桜田義孝・前五輪相の失言による相次ぐ辞任などで失速気味。第1次安倍政権の退陣に繋がった閣僚辞任ドミノの再来を警戒する声も強い。
4月の衆院補選に続き、7月の参院選で惨敗するなど政権が大きな打撃を受けた場合について、厚労省幹部は「先送りして実現させようとしたことが、水の泡になりかねない」とハラハラしている。
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