厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」の報告書が3月にまとまった。当面は特例も設けられるものの、医師の労働時間も規制対象となる。アカデミアの立場からこの検討会に構成員として参加していた猪俣武範氏は、これまで医師はどこまでが労働かが曖昧に捉えられてきたと振り返る。その上で、医療機関は今後、労働実態の把握など6つの対策から着手する必要があると指摘する。
──現在の医師の働き方をどう見ますか。
猪俣 私のように大学に勤める医師の仕事は「臨床」「研究」「教育」の3本柱から成り立っています。従来はこの3つの仕事が境目なく渾然一体となっているのが特徴でした。そのため、どこまでが労働か曖昧になっていました。自己研鑽であれば、労働と切り離せますが、実態としては切り離すのが難しいものです。医療は公共のインフラと考えられてきましたから、医師は自己犠牲を払いながら、それを当たり前として働いてきたケースが多いのではないでしょうか。労務管理の話が進みますが、多くの医師が地域の医療体制を壊すことなく、改革するのは難しいと受け止めていると思います。ただし、医師のワーク・ライフ・バランスにとって良い状態ではないとも思っているはずで、そこは変えた方がいいという思いもあるでしょう。私自身は眼科学教室において移植免疫やドライアイなどに関わる基礎研究を手掛けながら、戦略的手術室改善マネジメント講座にも併任し、手術室の運営効率化についての研究に取り組んでいます。手術室の数は固定されていますから、運営が悪ければ手術をできなくなります。プロセスを見える化し、暗黙知を目で確認できるようにすると、手術時間は短くなっていきます。そのような研究を通し、医師の働き方についての問題を考える機会もありました。
──そうした研究があって厚生労働省の検討会の構成員に選ばれたのでしょうか。
猪俣 私がどういった経緯で選ばれたのかは分かりません。ただし、構成員は、医師の勤務エリア、年齢層、医師以外の医療従事者、労働組合関係者などを含め、バランス良く選ばれていたと感じていました。私はアカデミアの立場から加わったものと考えています。大学においては特に研究の領域において、深く考えたり、実験、解析、論文執筆などをしたりして、長い時間が取られます。単純に労働時間の枠内に収めようとすると、どうしてもうまくいかない部分もあると考えてきました。そうやって日本の医療におけるイノベーションが阻害されてはいけないという危惧もあります。研究の環境を保ちつつ、自由な発想で働き方を考える必要があります。
医療体制を崩さない働き方改革が必要
──検討会での議論を振り返り、どう考えますか。
猪俣 検討会の始めの頃には、「医師は労働者ではない。労働時間に制限をかけずに、自由裁量で働かせよ」といった意見を聞くことがよくありました。ですが、検討会が進む中で、意見が逆に変わってきたのです。むしろ「医師をそんな長く働かせるのはまかりならん」というものです。医師は無限に働かされていたという不満が表に出てきたのです。時間外労働の特例水準である年1860時間といった数字が出てくると、勘違いした人も多くなり、時間外労働時間の上限として示したにもかかわらず、受け止め方として、医療機関の経営者は医師をそこまで働かせてよいと考え、医師の方はそこまで働かされると捉えた人も出てきました。検討会では、急に労働時間に制約をかけて医療体制が崩れないよう状況を調節していくという考え方で進めてきました。ですが、そこはかみ砕いて説明を続けたいと考えていました。
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