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「強制不妊手術」救済法案が判決待たずに作られた思惑

「強制不妊手術」救済法案が判決待たずに作られた思惑
「早期救済」以外に、各地の訴訟への影響回避を狙ったか

与党のワーキングチーム(WT)と超党派の議員連盟は、旧優生保護法(1948〜96年)下で不妊手術を受けた障害者に、一時金320万円を支払うなどとした救済法案をまとめた。4月中にも施行される。

 国家賠償請求訴訟から1年余、そのスピードには被害者からも評価の声が上がる一方、一時金の水準や誰が謝っているのかが曖昧な「おわび」には強い拒絶反応も出ている。「訴訟の広がりを避けたい」。そんな与党幹部の思惑が叶う保証はない。

 救済法案がまとまった3月14日。東京都内で記者会見した被害弁護団の弁護士、新里宏二・共同代表は「予想より早かった」と一定の評価は示しつつも、内容に関しては「子どもを生み、育てるという決定権を侵害されているのに、一時金320万円では被害回復にならない。被害の重大性に向き合っていない」と強く批判した。

 身体的、精神的に優れた遺伝子を後世に残す——。そうした優生思想の下、障害者らへの不妊手術を強制できる旧優生保護法は、71年前に生まれた。議員立法で制定され、国会議員は不妊手術の徹底を求める趣旨の質問を繰り返した。

 国会の意向を踏まえ、旧厚生省は自治体に手術の徹底を求めて通知を繰り返した。人権を蹂躙するこの旧法は、つい23年前まで存在していたのである。

 「基本的人権を踏みにじる違憲の法律だ」。2018年1月以降、旧優生保護法に基づき不妊手術を強いられた人達20人が相次いで提訴し、札幌、仙台、東京、静岡、大阪、神戸、熊本の7地裁で国に慰謝料など1100万〜3850万円を求めている。19年夏に参院選を控える中での国賠訴訟は、国会議員を揺さぶった。

 18年3月には与党WTと超党派議連が発足し、救済法案の検討に着手した。法案をまとめた3月14日の記者会見で、超党派議連会長の尾辻秀久・元厚生労働相(自民)は「(被害者は)お年を召している。完全(な内容)でなきゃ駄目というと、いつまでたってもできない。おわびを申し上げると思って急いだ」と述べ、法案作成にあたってはスピードを重視した点を強調した。

「おわび」は違憲性には触れず

 訴訟が3月20日に結審した仙台地裁では、5月28日に判決が言い渡される。当事者の高齢化に配慮して急いだとはいえ、救済法案の内容が判決に先立って固まるのは異例のことである。

 国が違憲性を認めていない中、法案づくりには「訴訟への影響」という縛りがかかった。

 法案に盛り込まれた「おわび」には「真摯に反省し、心から深くおわびする」と明記したものの、違憲性には触れず、おわびをする主語も「我々」という表記にとどめた。

 超党派議連と並行して法案づくりをしてきた与党WT座長の田村憲久・元厚労相は、「『我々』には政府、国会が含まれる」と説明している。それでも、「我々」としたのは「国の責任」を明確にせず、曖昧にする目的が透けて見える。「国」が主体となることを求めてきた被害者側との隔たりは大きい。

 15歳で不妊手術を強制され、最初に仙台地裁に提訴した宮城県の60代女性の義姉は「強制手術を認める法律があったから、地方自治体も医師も従った。責任を負うのは『国』だということをきちんと明記してほしい」と訴える。

 一時金の水準は土壇場まで難航した。与党WTや超党派議連が物差しにしようとしたのは、01年のハンセン病損失補償法と99年にスウェーデンで実施された救済策である。

 ハンセン病患者は隔離政策の一環として強制不妊手術を受けている人がおり、その補償金は800万〜1400万円だ。

賠償基準が低いスウェーデンが参考

 しかし、国が控訴を断念して被害者に謝罪したハンセン病の訴訟と違い、旧優生保護法に関して国は違法性を依然認めていない。結局、補償はハンセン病訴訟を参考にすることはできず、スウェーデンの金額をベースとした一時金とすることにとどめた。日本より賠償基準が低いスウェーデンを参考にしないよう求めてきた弁護団の意向は、受け入れられなかった。

 被害の実態を調査するのは、衆参両院の調査室とした。外部の弁護士などに担わせると、国会議員が一定程度グリップすることさえ難しくなると判断したようだ。

 また、被害を認定する機関は厚労省内の審査会が行う。強制不妊を推し進めた旧厚生省が関わることに被害者側は強く反発し、第三者機関の設置を求めている。

 救済対象を原則として本人に限った点にも、被害者側は納得していない。強制不妊手術はパートナーら親族の「家族形成権」を奪うとの考えからだ。

 交通事故で生殖能力を失った際の慰謝料の基準は1000万円程度という。今なお、訳が分からないうちに手術台に乗せられた恐怖が蘇るという被害者の一人は「長い間のつらい思いと(320万円では)かけ離れている」と話す。

 今回の救済対象は手術記録や同意の有無にかかわらず、関係者の証言に基づいて被害認定するなど「柔軟に対応する」とされた。

 ただし、救済対象であることは「プライバシー」を理由に本人には伝えず、「国の広報活動」での周知にとどめる。請求は法律の施行から「5年以内」と限定した。

 救済法案と被害者側が求める内容に大きな隔たりが生じた理由について、弁護団は救済法案が判決に先行した点を挙げている。国が責任を認めた後に救済制度がつくられたハンセン病の訴訟と違い、司法判断を待たずに救済法案を作った影響は一時金の水準など広範囲に及んだ。

 判決と救済法案の内容が食い違っていても、国は救済法案を超す部分については応じない可能性がある。さらに、原告が勝訴しても国は謝罪や賠償に応じず、原告以外の被害者も含めた「公平性」を盾に、控訴に踏み切る事態も想定される。

 政府内には国賠請求権が20年で消滅する「除斥期間」を理由に「原告敗訴となる」(厚労省幹部)との見方も強く、訴訟取り下げへの期待は根強くある。与党WTなどが急いだ理由には、「早期救済」以外に、各地の訴訟への影響回避という思惑もある。

 だが、国の謝罪を求める被害者は、国の責任があいまいなまま決着することに納得していない。救済法施行後も訴訟を継続したり、新たな訴訟を起こしたりすることはできる。弁護団の新里共同代表は「裁判を終わらせる効果は期待できず、新たな訴訟も起こされるのではないか」と見通している。

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