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高額薬増加で薬剤費は高騰しない 医療費の「適正水準」維持は可能

高額薬増加で薬剤費は高騰しない 医療費の「適正水準」維持は可能
二木 立(にき・りゅう)1947年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業。代々木病院リハビリテーション科長・病棟医療部長を経て、85年日本福祉大学教授。92年米カリフォルニア大学ロサンゼルス校公衆衛生大学院に留学。2009年日本福祉大学副学長。13〜17年同大学長。『地域包括ケアと医療・ソーシャルワーク』『医療経済・政策学の探究』『地域包括ケアと福祉改革』など著書多数。

医療の質と医療財政の健全性をいかに両立させるか。少子高齢化が進む日本で避けて通れないテーマだ。一方で、技術進歩のスピードは増しており、高額な薬剤や治療法が次々と登場している。医療を維持・強化するために、今何が求められているのか。医療・介護政策に積極的な提言を続けてきた二木立氏に医療財政、地域包括ケア、予防医療と医療費など幅広いテーマについて聞いた。


——「オプジーボ」や「キムリア」など、次々生まれる高額薬剤が薬剤費の高騰に繋がることを懸念する声があります。

二木 それは事実誤認です。2016年度以降、薬剤費は政策的にコンロールされており、薬剤費比率も低下しています。15年度の調剤費(薬剤費+技術料)は前年度比9・4%増でしたが、16年度は4・8%減、17年度は2・9%増で安定的に推移しています。一時期、「オプジーボ亡国論」のような議論がありましたが、その前提は薬価引き下げができないことです。しかし、2年の間にオプジーボの薬価は4分の1に下がり、亡国論は立ち消えになりました。また、オプジーボとキムリアを同列に論じることはできません。オプジーボは数万人に使われていますが、キムリアの対象者は数百人程度といわれており、全体に与える影響は大きく異なります。高額薬剤のみに注目する議論は一面的です。一方では、特許切れの薬剤が次々と登場しているからです。公正な競争環境があれば、ジェネリック医薬品の普及などによって、薬剤費を適切な水準に維持することは十分可能です。

——これまでも、医療費高騰による危機が叫ばれたことがあります。

二木 日本では、新しい治療法によって保険財政が破綻するといわれたことが何度かあります。例えば、1950年代の結核医療費、70年前後の透析医療費などです。その度に、価格の適正化や適正利用によって医療費をコントロールしてきました。技術進歩の結果として治療法が高額化することはあっても、国民皆保険制度と両立させることはできると私は考えています。2019年度からは医薬品・医療技術の費用対効果評価が本格的にスタートします。日本の取り組みはやや遅れましたが、その分、海外の制度をしっかり勉強して優れた制度が生まれました。これも、医療費の適切なコントロールに役立つでしょう。

——他に医療費抑制策として注目している点は?

二木 最近注目しているのは、米国の取り組みです。これまで米国の共和党は製薬産業擁護の立場から、薬価規制には手を付けようとしませんでした。しかし、最近は超党派で医薬品価格の抑制に向けた議論が活発化しています。他の国でも、高額薬剤に対する新しい支払い法が模索されています。アウトカムに対する支払い(成功報酬型)、効果の不確実性に対応する分割払い方式、ファンドの設立など。試行錯誤はあるでしょうが、その動向を注視する必要があるでしょう。もう一つ、ジェネリックを当初の適用疾患だけでなく、別の疾患にも適用しようという試みが、製薬企業やNPOなどの間で広がりつつあります。ジェネリックとしての価格のままか、どの程度の薬価増を容認するかといった議論はありますが、ゼロスタートの新薬に比べれば相当安く提供できるはずです。

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