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未来の会

頼みの綱の「輸出」減により景気は〝後退局面〟へ

頼みの綱の「輸出」減により景気は〝後退局面〟へ
問われるのは今秋の消費税率引き上げの是非

例の「統計」問題に限らず、何であれ「偽装」は安倍晋三内閣のお得意ということなのか。

 政府は1月29日、「景気回復期間」が「戦後最長になった可能性」があると表明。続いて2月21日には、2月の月例報告で国内の景気判断について、14カ月連続で国内の景気判断を「緩やかに回復している」と表現した。

 だが、いくら何でも経済実態の「偽装」とでもいうべきフェイクニュースの類いではないのか。

 さすがに、この「偽装」の張本人を5回も国政選挙で勝たせるという“自損行為”を重ねている国民ですら、82%もが「(景気回復の)実感はない」と回答している(2月初旬に実施されたJNNのアンケート調査)。

 当然だろう。連合の調査によると、安倍政権下の2013年から18年にかけての実質賃上げ率はわずか1・1%で「今世紀最低」の水準。おまけに実質家計消費支出(年換算)も、13年の364万円が、5年後の18年には339万円と実に25万円も落ち込んでいる。これで、「景気回復」を「実感」できるはずもない。

「総雇用者所得」増も内実は高齢・非正規

 だが、現実が失政の証明となればなるほど、「偽装」に駆られるのが安倍の習性なのか。今年になって、「総雇用者所得」なるあまり聞き慣れない用語を持ち出し、それが「増えた」などと得意顔をし始めた。

 この「総雇用者所得」は、勤労者の平均賃金に雇用者数を単純に掛けただけの数値。11年を100とすると、安倍によると18年12月は物価の影響を含めた名目で110・5で、物価の影響を除外した実質では106・3だから、確かに「増えた」のは間違いない。

 だが、平均賃金の伸びは実質でマイナスだから、「増えた」分は雇用者数だけ。安倍政権の6年間で雇用者は384万人のプラスとなったが、実にその70%近くが65歳以上で、しかもその年代では約80%が低賃金の非正規だ。

 何のことはない。相次ぐ年金支給額の削減や社会保障費の切り下げで生活できなくなった高齢者が、やむを得ず働きに出ることになった結果だろう。いくら「総雇用者所得」が「増えた」といっても、まともな政府なら到底胸を張れるような内容ではない。

 見方を変えれば、国民の窮乏化を示すような数値でしかないものを、あたかも自分の手柄でもあるかのように「アベノミクスの成果」などと自賛するのは、それだけ「成果」があまりに乏しいからに違いない。「景気拡大期間」が「いざなぎ景気」(1965年11月〜70年7月)を超え、「いざなみ景気」(2002年2月〜08年2月)と並ぶ見通しとなったなどとメディアは報じているが、次のように現実の経済指標は芳しくない兆候ばかり示している。

 昨年12月10日に内閣府が発表した同年7〜9月期のGDP(国内総生産)改定値は、物価の変動を除いた実質で0・6%減。年率換算では2・5%減となり、5%から8%に消費税が増税された14年4〜6月期以来、4年3カ月ぶりの大幅な落ち込みとなった。これで、どうして「景気回復」なのか。

 日本百貨店協会が1月23日に発表した18年の全国百貨店売上高は、5兆8870億円で、既存店ベースで前年比0・8%減となり、2年ぶりのマイナス。日本チェーンストア協会が1月22日に発表した18年のスーパー売上高も12兆9883億円で、既存店ベースでやはり前年比0・2%減となった。

 東京商工リサーチの発表では、今年1月の企業倒産数(負債額1000万円以上)は前年同月比の4・9%増の666件に達した。昨年度の倒産件数は前年度比の2%減に留まったが、1月になって増加した。

 このように、既に景気後退リスクが懸念される局面になっているが、それでも第2次安倍政権下で実質所得も実質家計消費支出もほぼ伸びはゼロかマイナスながら、ともかくも「いざなぎ景気超え」などと言ってこられたのは、世界経済が拡大して輸出が増え、外需主導であったからに他ならない。

 12年から18年までの間、日本のGDPの実質成長率で見ると年平均でわずか1・2%だが、世界のそれは3・5%だった。日本経済は内需が駄目でも輸出の伸び(同年間で28%増、財務省貿易統計より)で何とか持ちこたえてきた形だ。

 大企業(金融・保険業を含む、資本金10億円以上)の内部留保が425・8兆円(17年度)という空前の額に達したのも、人件費を抑制して労働分配率を低下させた面もあるが、やはり世界経済の拡張があったことが大きい。だが、今やこの外的要因は急速に変化しつつある。

米中経済戦争が日本を直撃

 財務省による1月23日の発表によると、18年の貿易収支は速報で1兆2033億円の赤字を記録し、3年ぶりに赤字となった。さらに同省が2月20日に発表したこの1月の貿易統計速報(通関ベース)でも、貿易収支は1兆4152億円の赤字。輸出の減少は2カ月連続、貿易赤字は4カ月連続となった。しかも赤字の幅では、4年10カ月ぶりの大きさである。特に、最大の貿易相手国である中国向けの輸出が前年同月比で17・4%マイナスの9581億円となった影響が大きく、2カ月連続での減少だ。

 言うまでもなく、今後も収拾の目途が立ちにくくなっている昨年来の米中経済戦争に、日本が直撃されてしまった構図だ。

 皮肉にも、間違っても自分は戦場に行かないのに「中国に立ち向かう覚悟」(ジャーナリスト・櫻井よしこ氏)などと煽動する有象無象の者達がこの国で跋扈し続けている間に、企業にとって大事な中国からの稼ぎが縮小しつつある。

 内需に力強さを欠き、頼みの綱だった輸出も停滞し始めたとなると、日本経済はいよいよ踊り場状態に入ったといえよう。

 ここで問われるのは、安倍が今年10月に実施すると宣言した消費税の10%増税の是非だ。この局面で、本当に実施して良いのだろうか。そのための準備を考慮すれば、最終決断までの時間は残されていないはずだが、「偽装」に惑わされず経済実態を直視するなら、またぞろ唱え出された「社会福祉のための安定財源」などという安倍の嘘に再度だまされるという選択肢は考えにくい。

 それとも、とっくの昔に何が「偽装」で何が真実かの見分けもつかなくなったような国民のことだ。

 この6年近い間に、日本銀行に量的・質的金融緩和策と称して約400兆円も投じさせた挙げ句、国家財政の破局的悪化と勤労者の窮乏化ばかりが目立ちながらも「いざなぎ景気超え」なる安倍の宣伝に無頓着のままでいるのだろうか。口では、「実感はない」とつぶやきながら……。(敬称略)

 

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