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未来の会

「インフルエンザ流行」と騒ぎ続けるマスコミの功罪

「インフルエンザ流行」と騒ぎ続けるマスコミの功罪
本来伝えるべきは休養と栄養摂取の勧めでは?

今冬も猛威をふるったインフルエンザ。1月21〜27日の1週間に報告された患者は1医療機関当たり57・09人と集計が始まった1999年以降最多を記録するなど、爆発的に流行が拡大した。特に抵抗力の弱い高齢者が多い特別養護老人ホームや病院などでの集団感染はメディアをにぎわせた。しかし、「冬になるとインフルエンザがはやるのは当たり前の話。メディアはちょっ↘と騒ぎ過ぎではないか」(都内の内科医)と毎冬の騒ぎを疑問視する声も上がっている。

 「確かに今冬は、重症化する患者が多い印象。高齢者や乳幼児などでは警戒が必要だ」と語るのは都内の開業医。インフルエンザウイルスには複数のタイプがあり、年によっては重症者が多くなることもある。A型から流行が始まり、シーズン終わりにはB型が増えるというなんとなくの傾向はあるものの、さらに細かいタイプやその割合は年によって異なる。

明るみに出た施設のみが謝罪迫られる

 そんな中、今年の傾向として目立ったのは「集団感染」のニュースだ。1月には秋田県の病院で30人、特別養護老人ホームで13人の集団感染が起き、それぞれ1人が死亡。群馬県の特別養護老人ホームでも入所者35人がインフルに集団感染し、80〜90代の男女5人が死亡した。兵庫県では老人ホームで入所者62人と職員12人の計74人がインフルに集団感染し、70〜90代の入所者7人が死亡した。愛知県の名古屋刑務所でも昨年12月下旬以降、受刑者と職員合わせて300人超がインフルを発症していたことが判明した。いずれも、インフル集団感染として、ニュースで大きく取り上げられた事例だ。

 ただ、こうした施設の集団感染や複数の死者についての報道に、「どんな意味があるのか」と疑問を呈する医療関係者もいる。「施設に入所する高齢者は抵抗力が弱いから、気をつけていても感染は拡大するだろう。そもそもインフルのような感染力の強いウイルスはどんなに防ごうとしても防ぎ切れない。死者が出るのは残念だが、施設を責めるのは間違っている」(埼玉県の内科医)。

 実際に、死者を出した高齢者施設の施設長は「亡くなった入所者のご家族におわび申し上げる」などと謝罪。ただでさえ入所者や職員の感染により人手不足や業務量増大が起きているのに、保健所の立ち入り調査やマスコミ対応をしなければならない煩わしさは大きなものがある。

 西日本の老健施設の職員が声を潜めて言う。「実はうちの施設でも集団感染が起きて、入所者に死者が出ました。職員もバタバタとインフルに倒れ、現場が回りません。感染を免れた私の休みは全部飛びました」。

 ニュースにはなっていない施設でも、インフルの集団感染や死者は発生している。明るみに出た一部の施設のみが謝罪を迫られるのは公平ではない。

 感染症の取材を担当する全国紙記者は「流行期に入ると、毎週金曜日にインフルの原稿を出すことが求められる」と語る。その理由は、厚生労働省が国立感染症研究所(感染研)の最新のインフル感染状況の数値を公表するのが毎週金曜日だからという。「感染研は都道府県別の1医療機関当たりの患者数や推定患者数、検出されたウイルスの種類、学級閉鎖の数などをまとめ、厚労省がそれを記者クラブに配布します」(同記者)。

 「全都道府県で警報レベル」「流行ピーク続く」といった見出しで伝えられるインフルの流行状況は、感染研のまとめが元になっている。ここに集団感染や死者といったトピックがあると、さらにニュースが大きくなるという仕組みだ。

 メディアがインフルエンザに注目するのには別の理由もある。

 「感染症のニュースはネットでよく読まれる。早い話が、反響が大きいのです」(科学部記者)。自社ニュースサイトに力を入れる新聞社が多い中、インフルを始めとする感染症は「人を呼び込むコンテンツ力を持っている」というのだ。そのため、「流行期に入れば、毎週のように感染が広がっていくのは毎年の傾向。それを、『インフル感染拡大』『感染拡大続く』『患者数、昨期ピーク超える』といった見出しで毎週伝えているのです」(同)。

 もちろん、各メディアともに流行拡大だけをニュースにしているわけではない。感染拡大を防ぐための方策や治療薬の話、感染したら注意すべきことも一緒に伝えている。ただ、「感染症の拡大を防ぐ方策は、せきやくしゃみが出る人はマスクをする『せきエチケット』と、手洗いくらいしかない。一言でいうと地味なので、あまりこうした記事は拡散されない」と科学部記者は嘆く。

企業文化の変化促す一方、受診殺到

 別の全国紙記者は、「インフルの流行を騒ぐことには『功』と『罪』がある」と分析する。まず「功」の部分は、少しくらいの熱なら出勤するのが当たり前といった日本の企業文化が、ここ数年の報道で大きく変わったという点だ。

 前出の埼玉県の内科医は「毎年のようにインフルの患者が増加傾向となっているのは、検査キットの普及とインフルの確定診断を求める人が増えているという要因が大きいのではないか」とみる。「多くの企業では、本人や家族がインフルと診断されたら熱が下がって数日間は出勤しない、といった決まりがある。大前提となるのは、インフルと診断されること。昔であれば熱が高い期間だけ会社を休んで家で寝ていた人が、インフルという診断を求めて医療機関に来ている面は否めない」(内科医)。感染を防ぐには、感染者との接触をなるべく控えることが一番だ。感染者が出勤しないことはもちろん良いことだが、「症状から、医者がインフルと診断すればインフルなのに、検査キットで出なければインフルでない、と考える患者が多いのも問題」とこの医師は語る。

 では「罪」の方は何か。「確定診断」を求めて医療機関に押し寄せる患者が増えるというのが1点。これは医療機関の混雑やさらなる感染拡大の要因となる。そして、受診した患者に安易に治療薬が処方される現状も問題である。感染症に詳しい医師は「今シーズン話題になった塩野義製薬の『ゾフルーザ』は早速、薬剤耐性ウイルスが出て感染研が注意を呼び掛ける事態となった。『切り札』とすべき薬が、このままでは安易に消費されてしまう」と警鐘を鳴らす。

 「日本人は真面目だから、インフルに感染したら証明書を取って薬を飲み、初めて会社を休めると考えがち。熱が出たら休養と栄養を取るのが第一で、受診は必須ではない」と多くの医師は口をそろえる。

 マスコミの「インフル大流行」のニュースは本来、「はやっている時期に高熱が出たらインフルが疑われるので、すぐに休んでください」というメッセージとして使われるべきなのである。

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