SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第124回 〝東京都知事選1年前倒し論〟の裏に潜むもの

第124回 〝東京都知事選1年前倒し論〟の裏に潜むもの

 大きな選挙が重なる亥年は不規則情報が飛び交い、政治家の発言や行動も変則的になりがちだ。周囲をうならせる名台詞もあれば、ユーモラスで笑いを誘う発言まで様々だが、いずれも時々の永田町の空気感を感じさせて興味深い。話題を集めた政治家の言葉や、政界で浮き沈みしている情報を探ってみる。

 「やっぱり、日本人は点呼に弱い。あの一言が決め手かも知れないな」

 今年最初の大規模な与野党対決選挙であり、保守分裂の修復という自民党の内部問題でも注目された山梨県知事選。自民、公明両党の推薦で初当選した元衆院議員、長崎幸太郎氏の万歳を眺めながら、自民党の中堅議員がつぶやいた。

 あの一言とは、自民党の二階俊博・幹事長が投票6日前の記者会見で放った発言のことだ。

 「142人の国会議員を山梨に応援に送り込む予定だが、全員参加したと言われるくらいの選挙戦にしたい。最終日までに出欠を取る」

 142人という数字を挙げたのも異例だが、面白いのは最後のくだりだろう。国会議員に対し、〈行ったかどうかの出欠を取るからな。行かなかったら分かっているな〉とにらみを利かせているのだ。逆に言えば、面従腹背で、さぼろうとしている気配が自民党内にあったからに他ならない。「出欠をとる」という、なんだか小学生に言って聞かせるような発言の裏には複雑な事情があるのだ。

山梨抗争が終結、次の舞台は静岡5区

 「全員参加」にも妙味がある。かつての金丸信・自民党副総裁はじめ、自民党の牙城と言われた山梨県に保守分裂をもたらしたのが、そもそも二階幹事長だったからである。二階派に所属する長崎氏は、衆院山梨2区で岸田派の堀内詔子・衆院議員と激しく争ってきた過去がある。長崎氏は2005年の衆院選で郵政民営化に反対した詔子氏の義父、堀内光雄・元通産相に対し、当時の小泉純一郎首相が送り込んだ刺客だ。以来、長崎氏と堀内家は計5回の衆院選で激突。17年衆院選では長崎、堀内両氏が無所属で対決し、堀内氏が僅差で勝利した。分断されてきた両陣営にはわだかまりが残っていた。

 小泉元首相の落としだねである長崎氏を拾った二階幹事長は、自派の勢力拡大に向けて山梨に進行し、地元自民党と激しくやり合い、党内では岸田派会長の岸田文雄・政調会長とにらみ合う構図が続いてきた。極論すれば、二階派と岸田派の私的な派閥争いなのだが、二階幹事長は「全員参加」の言葉で、巧みに自民党全体の問題にすり替えて勝利をつかんだと言えるだろう。

 もっとも、行き場を失ったかつての有力議員を片っ端から拾い集める二階幹事長の性癖がなくなったわけではない。山梨抗争が収束したその直後、新たな問題が持ち上がった。今度は、元野党幹部の引き込みである。

 民主党政権で原発事故担当相などを歴任し、旧希望の党を結成した細野豪志・元環境相=無所属、衆院静岡5区=が自民党二階派に「特別会員」として所属することになったのだ。山梨知事選から4日後のことである。細野氏は将来の自民党会派入りや入党も検討しているとされるが、静岡5区には支部長を務める岸田派の元職がいる。修復したかに見えた岸田、二階両派の関係が再びぎくしゃくする可能性があるのだ。

 当の二階幹事長は細野氏の処遇について「本人の希望、県連、地域の情勢を判断して党が決める」と述べたが、岸田派からは「二階さんの言っている『党』って、自分のことじゃないの」などと疑念が噴き出した。案の定、二階幹事長は2月5日の記者会見で細野氏の入党について「謙虚に受け入れる雅量がなければ駄目だ」と発言。「雅量」という美しい言葉で、先手を打った。安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領の首脳会談に目立った進展がなく、衆参ダブル選挙は、やや遠のいた感もあるが、二階幹事長による旧野党幹部の一本釣りに耳目が集まっている。

橋本聖子参院議員が都知事選出馬?

 年初の怪情報も二階幹事長と無関係ではなさそうだ。かつての保守党時代の仲間だった小池百合子・東京都知事の再選問題だ。小池知事の任期は2020年7月30日で切れる。その都知事選を「今年に前倒しする」との情報が飛び交っている。

 「都知事選1年前倒し」は、再選し、東京五輪・パラリンピックのホステスとして歴史に名を刻みたい小池知事と、これを阻止し、都政の主導権を回復したい都議会自民党、さらには安倍政権に批判的な小泉元首相と近い小池知事を潰しておきたい安倍首相周辺の思惑が絡んだ「同床異夢」なのだという。

 都議会の事情通によると、先手を取ったのは小池知事の方だという。

 「東京五輪の会期は7月24〜8月9日、パラリンピックは8月25〜9月6日。このまま行けば、小池知事の任期は東京五輪の真っ最中に切れる。次の知事選で再選できなければ、開会式と閉会式で知事が別人という恥ずかしい話になる。そこで、小池知事は就任時から任期は3年半だと明言し、前倒し論を言い続けてきた」

 これに対し、都議会自民党は早期の小池潰しを画策する。築地市場の豊洲移転の大混乱やカイロ大学首席卒業疑惑などでの不信任決議案の提出、リコールなどが検討されたが、いずれも失敗。そこで、小池知事とは旧知の二階幹事長が、小池知事を昨年9月の沖縄県知事選の応援にかり出し、自民党との関係修復に動いた。一時は、小池知事が都議会自民党に形式的に頭を下げることで、自民党が再選を支持するという妥協案や、都知事の任期をパラリンピック終了まで延長する特例法制定案も浮上したが、安倍首相周辺の反発で反故になったという。

 いずれの選択肢も取り難い状況で、衆目が再び集まったのが参院選に抱き合わせての「都知事選1年前倒し論」だという。もちろん、実施には特例法が必要だ。特例法は東日本大震災など国家的重大事に際して検討される。ハードルは高いのだが、東京五輪と都知事選が国政の大事であると、政府・与党が踏ん切りを付ければできないことではない。

 「安倍さんは対外的なメンツを重んじるから、都知事選の前倒しはあり得ると思うよ。問題は、小池知事を確実に落とせる候補を立てられるのかどうか。参院選で自民党のプラスになる効果もないとね。その辺だろうな」。自民党幹部はそう語ると、「俺のアイデアではないが」と前置きして、付け加えた。

 「JOC(日本オリンピック委員会)副会長の橋本聖子・自民党参院議員会長がいいという声が多いね。野田聖子・前総務相も意欲的らしいし、若手だと、丸川珠代・元東京五輪・パラリンピック担当相っていうのもあるよね」

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top