SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

「製薬マネーと医学会」の実態が浮き彫りに

「製薬マネーと医学会」の実態が浮き彫りに
352人の理事へ総額7億2000万円


 製薬企業から主要な医学会の理事に支払われた謝金についてまとめた論文が2月5日、米国医師会雑誌・内科版『JAMA Internal Medicine』に掲載された。医師が参加するNPO法人「医療ガバナンス研究所」と、調査報道を行っているNGO「ワセダクロニクル」が共同で構築したデータベースを基に、同研究所メンバーの医師5人が論文を作成した。製薬企業と医師の金銭的な関係を明らかにした論文は日本初という。また、米国では製薬企業と医師の利益相反の問題に関して活発な議論が行われており、内科系雑誌としては世界で最も権威のある『JAMA』に論文が掲載されたことは国際的な関心の高さを伺わせる。

 米国ではオバマ大統領が進めた医療保険改革法の一環として「サンシャイン条項」ができ、製薬企業から医師への金品提供に関する情報公開が義務付けられた。日本では製薬企業でつくる日本製薬工業協会(製薬協)が「透明性ガイドライン」を策定、各社ごとにホームページなどで公開している。しかし、公開された情報は規格が統一されていないことなどから、医師個人に送られた金額の実態は不透明なままだった。

 そこで、医療ガバナンス研究所とワセダクロニクルは製薬協加盟71社が公開している2016年度のデータを統合、主要な19医学会の理事への謝金などを分析、論文化し最大金額(た。

 分析の結果、405人の理事のうち、352人(86・9%)が総額約7億2000万円を受け取っていた(表①)。内訳は講演料が約5億9000万円、コンサルタント料が約8700万円、原稿料が約4600万円だった。

 上位40人の受け取り金額の合計は、全体の45・8%に当たる約3億3000万円に上った。この40人の理事の所属学会で多かったのは日本内科学会(12人)、日本泌尿器科学会(7人)、日本皮膚科学会(7人)だった。論文には40人の氏名は掲載されていないが、医療ガバナンス研究所から上位20人の氏名を明らかにしてもらった(表②)。これによると、大学別の多さでは慶應義塾大学が4人、東京大学が2人いた。

 理事に支払われた総額を学会別に分析すると、最も多く支払われていたのが日本内科学会で、全理事の金額の約20%。次いで日本泌尿器科学会(約15%)、日本皮膚科学会(約11%)が続いた。

 医療ガバナンス研究所とワセダクロニクルは製薬協加盟社と関連会社計77社の公表データを基に「マネーデータベース『製薬会社と医師』」を構築、1月からワセダクロニクルのホームページで公開し、一般の人も検索できるようにしている。参考に支払額上位20社を掲載する(表③)。

 論文の筆頭著者で同研究所メンバーの齋藤宏章・仙台厚生病院消化器センター医師は「医学会は医師全体の処方や治療の方針に大きな影響を与える。その医学会を運営する理事に対し、製薬企業がどの程度の影響を与えているのかを調べることは重要。金銭の受け取りそのものは不正ではないが、どのような在り方が望ましいのか、論文が議論の足掛かりになれば」と話す。

各学会と理事の受け取り件数・金額(表①)
注1:2人は学会を掛け持ち 注2:千円以下は切り捨て
学会理事数 注1学会全体理事1人当たりの金額
 受け取りあり / 全体件数金額 (円)注2平均 (円)最大金額(円)
日本内科学会22 / 22 (100%)1,176150,497,0006,840,00019,179,000
日本小児科学会25 / 28 (89%)21223,168,000827,0002,619,000
日本病院総合診療医学会16 / 22 (73%)15214,945,000679,0004,215,000
日本皮膚科学会18 / 18 (100%)67180,880,0004,502,00010,939,000
日本外科学会23 / 23 (100%)37143,156,0001,876,0004,987,000
日本脳神経外科学会22 / 23 (96%)25927,146,0001,180,0003,076,000
日本産婦人科学会30 / 32 (94%)33135,531,0001,110,0004,407,000
日本眼科学会19 / 19 (100%)43757,604,0003,031,0008,143,000
日本整形外科学会22 / 23 (96%)43248,885,0002,125,0006,849,000
日本耳鼻咽喉科学会20 / 24 (83%)24825,903,0001,079,0005,203,000
日本形成外科学会9 / 17 (53%)344,507,000265,0001,951,000
日本泌尿器科学会20 / 21 (95%)846108,089,0005,147,00013,772,000
日本麻酔科学会21 / 27 (78%)13314,935,000553,0002,759,000
日本救急医学会13 / 15 (87%)768,554,000570,0001,926,000
日本病理学会10 / 15 (67%)646,953,000463,0001,823,000
日本精神神経学会19 / 20 (95%)34440,075,0002,003,0007,792,000
日本医学放射線学会17 / 18 (94%)8510,459,000581,0002,720,000
日本リハビリテーション学会17 / 23 (74%)18620,336,000884,0003,304,000
日本臨床検査医学会8 / 17 (47%)706,189,000364,0002,407,000
医師別 受け取り額ランキング(表②)
 氏名学会・役職施設・役職金額(円)
1田中良哉日本内科学会・理事産業医科大学・教授19,179,469
2持田智日本内科学会・理事埼玉医科大学・教授16,737,196
3竹内勤日本内科学会・監事慶應義塾大学・教授15,672,562
4横山修日本泌尿器科学会・理事慶應義塾大学・教授13,772,268
5大家基嗣日本泌尿器科学会・理事慶應義塾大学・教授12,722,674
6鈴木啓悦日本泌尿器科学会・理事東邦大学医療センター
佐倉病院・教授
12,622,933
7樋口和秀日本内科学会・理事大阪医科大学・教授11,158,136
8江藤正俊日本泌尿器科学会・理事九州大学・教授11,041,705
9五十嵐敦之日本皮膚科学会・理事NTT東日本関東病院・皮膚科部長10,939,660
10冨田善彦日本泌尿器科学会・理事新潟大学・教授10,651,730
11佐藤伸一日本皮膚科学会・理事東京大学・教授10,428,545
12長谷部直幸日本内科学会・監事旭川医科大学・教授9,809,451
13小室一成日本内科学会・理事東京大学・教授9,671,147
14佐伯秀久日本皮膚科学会・役員日本医科大学・教授8,611,501
15山本哲也日本眼科学会・理事岐阜大学・教授8,143,572
16下川宏明日本内科学会・理事東北大学・教授7,998,447
17三村將日本精神神経学会・理事慶應義塾大学・教授7,792,954
18伊藤裕日本内科学会・理事慶應義塾大学・教授7,144,186
19秀道広日本皮膚科学会・役員広島大学・教授6,903,472
20内尾祐司日本整形外科学会・理事島根大学・教授6,849,578
製薬会社別 支払い額ランキング(表③)
1第一三共2,015,000,000円
2中外製薬1,182,818,918円
3田辺三菱1,171,000,000円
4武田薬品工業1,161,601,266円
5大塚製薬1,145,410,749円
6MSD1,072,598,490円
7ベーリンガーインゲルハイムジャパン1,071,910,000円
8ファイザー974,472,908円
9小野薬品917,115,852円
10協和発酵キリン866,535,432円
11アステラス製薬858,000,000円
12日本イーライリリー835,106,907円
13アストラゼネカ791,487,272円
14ノバルティスファーマ790,000,000円
15バイエル薬品765,529,063円
16エーザイ727,000,000円
17大日本住友製薬693,914,340円
18ブリストル・マイヤーズ スクイブ639,336,522円
19大鵬薬品工業531,780,881円
20興和493,324,126円

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top