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未来の会

古いモデルにとらわれず 「新しい時代の医療」を考える

古いモデルにとらわれず  「新しい時代の医療」を考える

 

上 昌広(かみ・まさひろ)1968年兵庫県生まれ。93年東京大学医学部卒業。同年同大医学部附属病院内科研修医。95年都立駒込病院血液内科。99年東大大学院医学系研究科修了。99年虎の門病院血液科。2001年国立がんセンター中央病院薬物療法部。05年東大医科学研究所特任准教授、10年同研究所特任教授。16年医療ガバナンス研究所設立、理事長。メールマガジン「MRIC」編集長。著書に『病院は東京から破綻する』など。

製薬企業が絡んだ論文不正問題、医学部の不正入試問題など、我が国では医学・医療を巡る事件が次々と起きている。問題はどこにあり、解決の方策はあるのだろうか。また、これからの時代の医療の新しいニーズと大きなチャンスは何なのか。医療ガバナンスの専門家で、医療に関わる様々な情報を発信し続けている上昌広氏に話を伺った。

——医学部不正入試問題はなぜ起きたか?

 大学病院の経営が厳しくなり、崩壊に向かっていることが根本にあります。大学病院は総合百貨店のようなモデルで経営しているわけですが、それが専門店に歯が立たなくなってきた、ということが関係しています。不正入試問題は、東京医大、順天堂大、昭和大、日大など、主に都心部にある大学で起きています。このような東京の真ん中にある大学病院は、民間の専門病院との競争を強いられるので、経営が厳しいのです。この地域では、がん研有明病院、榊原記念病院、伊藤病院、井上眼科といった専門病院が急成長し、大学病院から患者をどんどん奪っています。総合百貨店と専門店の勝負は、既に決着がついているのです。大学病院が生き残るには、人件費を下げざるを得ず、医師を確保するために、優秀であるかどうかよりも、安い賃金で大学病院で働いてくれる男性を優先するわけです。

——優秀な人材を落として、質の低い受験者を合格させていたわけですね。

 そういうことをしていられたのは、新規参入がないからです。当たり前のことですが、いい医学部にしようとしたら、優秀な学生を採るしかありません。それをしなくてもいいと考えていられるのは、新規参入がなくて、自分達が負ける心配がないからです。医学教育のレベルを向上させるためには、新規参入があって競争が行われるべきだと思いますが、医学部新設時のヒステリックな反応を見ると、既存の医学部は、競争になったら負けると本能的に思っているのでしょう。新規参入がなければ、男女差別をしていても平気だし、優秀な人材を採らなくても大丈夫と思っているのでしょう。こうした状態を改善するには、行政指導という方法がありますが、今回明らかになったのは、文部科学省と大学が癒着していたことでした。規制で医学部を守るから、役人は天下ることができるわけで、まさに持ちつ持たれつなのです。高校野球の強豪校である大阪桐蔭の監督は、グラウンドにいるよりリトルリーグを回っている時間の方が長いという話を聞きました。チームを強くするには、優秀な人材を採ることが大切だからです。厳しい競争にさらされていれば、当然そうなるわけです。

——大学病院の経営を良くするには?

 大学から大学病院を分離すればいいのですが、これはまず実現しません。なぜなら、大学病院を分離すると、医学部新設の障壁は劇的に低下します。看護学部と同じになって、医学部参入の障壁がなくなってしまうからです。それで大学の経営者達は反対します。看護学部が協力病院で実習を行っているように、医学部にだって附属病院は必ずしも必要ではないのです。ハーバード大学は関連病院に学生を委託して実習を行い、その関連病院のドクターがハーバード大学教授を名乗ります。このやり方なら、早稲田大学ががん研有明病院や三井記念病院と一緒に医学部を作ることも可能です。しかし、医学部の新規参入に繋がる改革は実現しないでしょう。

東アジアが世界経済の中心になる
——競争が行われないとレベルが下がりそうです。

 そのために日本の優秀な学生が、海外の医学部に進学するようになっています。かつては超進学校からアメリカ東部のアイビーリーグへの進学がもてはやされましたが、今は東ヨーロッパや中国にもどんどん出て行っています。日本が変われるかどうか分かりませんが、変わらなければ淘汰されるだけなのです。それは当たり前で、優秀な頭脳を欲しいと思っているのは世界共通ですから。特に中国は猛烈に集めていて、医学部でもこれから加速するでしょう。例えば福岡だったら、東京に来るのも上海に行くのも変わりません。

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