臓器移植後の診療拒否巡り病院側の主張認める
中国で腎移植を受けた男性が、帰国後に国内の病院で継続診療を拒否されたのは医師法の応召義務違反に当たると病院を訴えた裁判で2018年12月、静岡地方裁判所が原告の訴えを退ける判決を出した。海外で移植を受けることの是非やその後の診療を拒否できるかには踏み込まなかったが、判決は世界から非難される「移植ツーリズム」の一定の歯止めとなるとみられる。臓器移植に関わる医療関係者にも大きな影響を与えそうだ。
事件の経緯はこうだ。原告の60代男性は15年1月、慢性腎炎の治療のため中国に渡航、天津市第一中心病院で腎臓の移植手術を受けた。2月に帰国して東京都内の病院に入院した後、4月にこの病院で作成された紹介状を持って浜松医科大学医学部附属病院(静岡県浜松市)を受診。男性が中国で腎移植手術を受けたことを把握した同病院の医師は、「中国で臓器売買(臓器ブローカー)が絡む腎移植をした者に対しては診療・診察を行わない」との病院内の申し合わせに従い診療を継続できないと男性に伝えた。男性は継続診療の拒否は医師法の応召義務違反に当たる、もし応召義務が適用されないとしても不当な診療契約の解除に当たると主張し、浜松医科大に270万円の損害賠償を求めて静岡地裁に提訴したというわけだ。
これに対し、病院側は「応召義務は医療に最初にアクセスする時にかかるもので、医師は男性の診察や検査を行い患者に緊急の危険がないことを確認した上で今後の診療の継続を断ったのだから、応召義務の適用場面ではない」と反論。男性は中国で移植を受けたということだけで診療継続を拒否したのは応召義務を免れる「正当な事由」に当たらず、自身が受けたのは臓器売買の絡むような移植ではないとも主張したが、病院側はこれにも異議を唱えた。男性から提供されたこれまでの診療情報には移植手術の内容が全く含まれておらず、正規の医療者間の紹介で移植を受けた患者ではあり得ないこと、国内の腎移植なら約100万円で済むのに、男性は中国での移植手術をコーディネートするNPO法人に1790万円を支払っており、国内で腎移植を受ける時間と手間を省くため高額の対価を投じて中国やアジアに移植を受けにいく状況が臓器売買や移植ツーリズムの助長に結び付いていると批判した。
判決では病院が問診や検査などをしていたことから応召義務違反に当たらないと判断。診療契約の解除の不当性についても「患者が浜松医大病院で診療を受けなければならない緊急の必要性があったとはいえない」「患者側からの情報提供が十分でないために中国において臓器売買(臓器ブローカー)の絡むような腎移植をした者に当たるとの疑いを払拭できなかった」と、病院側の主張をほぼ認めたのである。
臓器移植に詳しい関係者によると、臓器売買や移植ツーリズムを禁止し、自国での臓器移植の推進を提言したイスタンブール宣言に則り、海外、特に中国など臓器売買が疑われる国で渡航移植をした患者を診る国内の医療機関は少なくなっているという。「移植を仲介するNPO法人はこうした現状に焦りがあり、裁判に訴えたのではないか」と関係者は見る。だが、判決は原告に厳しい結果となった。
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