株価2万円割れで、言い伝え通りの「経済亥固まる」を予感させるスタートとなった2019年。干支はやはり何かを暗示するのだろう。政界は自民党が参院選で連敗続きの「亥年選挙」が最大の関心事だが、自民党の若手の一部には「『亥年現象』は平成の御代と共になくなる」との楽観論が芽生え始めているという。立憲民主党の枝野幸男代表ら幹部が1月4日に伊勢神宮に初詣したことが関連しているというが、さて……。
首相、農相らによる伊勢神宮の初詣は、1967年1月4日に佐藤栄作首相が行ったのが最初とされる。佐藤氏は安倍晋三首相の大叔父である。「正月三が日」を避けたのは、混雑を避けるためとされるが、仕事初めの4日にしたことで、公務とみなされ、政教分離を定めた憲法に違反すると指摘された。
その後、歴代首相が「私人」としての参拝と位置付けたことや、国民的な慣習で世論の反発も少ないことから、最近はほとんど問題にならないが、厳密に言えば政教分離違反の疑いは消えていない。
右派改革派・安倍VS保守・枝野?
さて、今年の仕事始めとなる1月4日は、この伊勢神宮に安倍首相だけでなく、立憲の枝野代表、国民民主党の玉木雄一郎代表ら野党幹部が参拝し、一騒動が持ち上がった。立憲は枝野代表の他、福山哲郎幹事長、蓮舫副代表や三重県連の幹部らが外宮、内宮の順に参拝した。
その様子を同党の公式ツイッターにアップしたところ、たちまち、賛否両論が噴き出し、炎上した。いつものネトウヨ(ネット右翼)からの攻撃ばかりでなく、立憲の支持者とみられる書き込みも相当数に上った。少し紹介してみよう。
「クリスチャンとして御党を応援する立場としてはケンカを売られた気分だ」
「信仰、宗教に関わることは個人アカウントでツイートしたらどうでしょうか?」
自民党と寺社勢力が近いのは周知の事であり、クリスチャンにとって共産党を除く野党は政治的な選択肢の一つになっている。その、野党第1党が公式のSNSに伊勢神宮参拝を載せたのだから、支持者が違和感を持ったのは当然だった。
立憲内には、歴代首相の伊勢参拝を「宗教と政治の分離原則を謳った憲法20条に反し、不適切」と指摘する議員もいる。過去の「国家神道」を想起させるような行為だと、支持団体の一部にも反発があったという。
弁護士出身で憲法にも詳しい枝野代表だから、憲法上の問題も考慮し、支持者の不興も計算の上だったとみられるが、結果を見ると、思惑通りではなかったようだ。
立憲幹部が語る。
「枝野代表は保守政治にこだわっている。国会質問や街頭演説でもたびたび主張しているが、安倍政権の本質は保守ではない。戦前戦後を通じて築き上げてきた議会制民主主義や平和憲法を自分の思惑だけで破壊しようとしているだけの右派急進政治だ。保守政治とは、良き伝統を引き継ぐ政治のことだ。我が党が主張しているのは平和憲法、さらにはその大元である立憲主義、民主主義を守ることだ。どちらが本当の保守政治かということを、国民の皆さんに知ってもらおうと努めている。今回の参拝もその延長線上にある」
かつて、岸信介元首相を祖父に佐藤栄作元首相を大叔父に持つ安倍首相は当選直後から「保守最後のプリンス」などと称された。しかし、その歴史認識や世界観には、伝統的な価値の守護者というより、既存の価値の破壊者の側面が強く出ている。立憲幹部が言うように、安倍首相の政治スタイルは保守ではなく、右派改革派というのが実情だろう。
その意味で、枝野代表が「本当の保守政治は立憲だ」というのも筋の通ったことだが、世の中の受け止め方は必ずしもそうではない。
自民党若手が面白そうにそうに語る。
「日本の伝統だから、伊勢参拝はいいんじゃないですか。でも、政治的にはどうなんでしょうね。自民党の真似をしているとしか見えないんじゃないですか。しかも、団体でね。三重県の支持勢力への義理もあったんでしょうけど。自民党に代わる受け皿を目指すから野党でしょ。自民党の土俵に上って、自民党に勝てるはずないんだから、馬脚をさらしただけですよ」
自民党選対関係者はもう少し辛辣だ。
「枝野代表には、左翼の活動家のイメージが付きまとっている。これは、政権批判の際にはプラス効果となるが、平時にはマイナスになる。そばに寄ってみたいという気持ちを抱かせてくれるタイプの政治家ではないんだ。弁は立つし、能力はあるんだけどね」
3時間に及ぶ国会演説などで、ポテンシャルの高さを示した枝野代表だが、野党連携のシンボルとなり得るかというと、「物足りない」との意見が多い。安倍首相の向こうを張って、伊勢参拝後に臨んだ記者会見でも、夏の参院選1人区での野党協力は強調したものの、複数区では展望を示せなかった。
「全選挙区で野党連携が成立すれば、参院選は野党の圧勝だ。それができないから、伊勢神宮の神頼み。皮肉を言えば、そんな感じかな。侮る訳ではないが、今の野党には、安倍首相に対抗する顔がないんだ。自由党の小沢一郎さんでは古過ぎるし、共産党の志位和夫委員長という訳にもいかない。野党第1党の枝野代表が化けるしかない。そこで、『真の保守政治』が出てきたんだろうけど、自民党に取って代わるべき勢力が自民党と同じ事をしても無駄だと思うな」
衆参ダブル横目に平成最後の論戦
枝野代表が掲げた「保守」という価値観は、戦後の高度成長期に「革新」との対比で国民に浸透した側面がある。世界の潮流が米国のトランプ大統領に代表されるような内向きな「国家主義」「排他主義」に傾き、広範な連携を視野に置いた「国際主義」がこれにあらがう時代にあって、国家主義的色彩を帯びた安倍政権に抗するために掲げるべき価値は何なのか。良き伝統を守る「保守」だけではなく、新時代にふさわしい価値の創造が必要なのだろう。
国会は1月28日に召集され、平成最後の論戦の火ぶたが切って落とされた。課題は山積している。安倍首相が年頭会見などで明らかにした全世代型社会保障制度改革や消費増税、朝鮮半島情勢、北方領土などは、いずれも衆院の解散名目となり得る。日程的にも衆参ダブル選挙の可能性が残された。自民党とは異なる新時代にふさわしい価値を国民に示せるか。立憲の枝野代表らの伊勢参拝の決意が試される。
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