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水道事業「民営化」がはらむ懸念

水道事業「民営化」がはらむ懸念
海外では失敗が続出、公営に戻すケースも

政府・与党は先の臨時国会で、外国人労働者を受け入れる改正出入国管理法とともに、自治体の水道事業運営権を民間に売却できるようにする改正水道法も強行に成立させた。「民間の効率的経営が必ず導入できるわけではない」。そんな野党の批判に安倍政権は耳を傾けず、「自治体の選択肢が広がる」として押し切った。

 日本の水道は多くが高度成長期に整備された。それから40年以上が過ぎ、法定耐用年数(40年)を超えた水道管が15%に上るなど設備の老朽化が進んでいる。

 水道事業の大半は市町村による運営だが、水道料金(月額の全国平均3228円)はこの30年で3割値上がりした。それでも、過疎化が進む地方を中心になお全体の33%が赤字だ。給水人口1万人未満の自治体に至っては49%が原価割れを起こしている。

 水道事業は、人口や住民の密度、気候に大きく左右される。広範な地域に人がまばらに住んでいるようなところでは、どうしても配水する際の効率が悪くなる。また、寒冷地では水道管の痛みが早く、投資額が膨らむ。

 こうした悪条件が重なっているのが、北海道の小規模自治体だ。2017年4月時点の水道料金(平均月額)を比較すると、高額1位は北海道夕張市(6841円)で、4位まで北海道の自治体が続く。夕張市の料金は、全国最安の兵庫県赤穂市(853円)の8倍にも及ぶ。

 このままでは、運営が危うくなる市町村も出かねない。そこで政府は水道法の改正に乗り出した。主な目的は事業の基盤強化。効率化に向け、自治体間の広域連携による事業統合の推進を促す。施設の維持を義務↖化し、収支見通しの公表も求める。法案は17年の通常国会に提出され廃案となったものの、18年の通常国会では衆院を通過後、継続審議となっていた。

 ただし、水道事業の統合は順調ではないのが現状だ。厚生労働省によると、既に34道府県には広域連携を目指す協議会などが設置されている。だが、どの施設をどこに統合するかを巡って自治体間の綱引きが起きたり、広域化にメリットを見いだせないと考える自治体があったりで、なかなか計画が進んでいないという。

「特定の外資系企業に譲り渡す法案」

 とはいえ、国会で争点となったのは広域連携ではない。野党が追及したのは、「コンセッション方式」という民営化の手法だ。自治体は公共施設の所有権を保持したまま、運営権を民間に売却できる仕組みとなっている。

 「水道事業を特定の外資系企業に譲り渡すことに繋がる法案を認めるわけにはいかない」

 政府・与党が採決を強行した12月6日の衆院本会議。反対討論に立った立憲民主党の初鹿明博氏は同方式への懸念を示した。他の野党も、海外では失敗が続出していることを指摘した。

 コンセッション方式はフランスが本場とされ、上水道の6割が民間委託されている。フランスの代表的な受託企業が、水メジャーと呼ばれる「スエズ・エンバイロメント」や「ヴェオリア」だ。

 ただ、フランスでは料金の値上げが相次ぎ、1984年に民間委託したパリ市では委託前の3・5倍に及んだのである。たまらず、10年に再公営化したところ、11年の料金は8%下がった。

 他の国でも、料金高騰や水質悪化といった問題が続々起き、南アフリカや米アトランタでは水質汚染が問題化した。00年〜14年の間、いったん民営化された後、公営に戻った水道事業は35カ国で180件に達する。

 それなのに厚労省は、海外での失敗例を3例しか検証していないことが国会審議の中で判明した。また内閣府の担当部局、民間資金等活用事業推進室に、仏ヴェオリア社の日本法人から出向職員を受け入れていることが分かった。

 社民党の福島瑞穂氏は「すさまじい利益相反だ」と指摘。立憲民主党などの野党は、海外で再公営化が進み、水メジャーの業務が減っていることが背景にあるとみており、「日本で水メジャーを救済するものだ」と批判している。今後もコンセッション方式部分の削除など、法律の修正を迫る構えを見せている。

 日本でコンセッション方式の導入が可能となったのは11年。民間の資本やノウハウを導入し公共施設を整備するPFI(プライベイト・ファイナンス・イニシアチブ)法の改正によるものだ。安倍政権は成長戦略の一環として、13年に閣議決定した日本再興戦略で公共部門の民間開放の拡大を打ち出し、PFIの一形態としてコンセッション方式を推進してきた。

 その結果、空港、道路を中心に全国で10分野82件(18年11月5日時点)の取り組みが進んでいる。下水道でも浜松市が18年4月に取り入れた。ただし、上水道の導入例はない。大阪、奈良両市では計画がとん挫した。導入後、運営会社が破綻しても、代わり得る企業がないことなどが懸念され、議会の理解を得られなかった。

委託業者は訴訟リスクを負わない

 コンセッション方式への批判に対し、菅義偉・官房長官は「官民連携はあくまで選択肢。自治体が活用する選択肢が増える」と反論している。市町村が水道事業者という点は変わらない。国などが事業計画や料金設定、自治体の監視体制などをチェックできる仕組みも盛り込まれている。給水の最終責任を負うのは自治体で、厚労省は「大災害の発生時などは市町村が給水を担う。料金にも上限を設けるので、高騰などは起きない」と説明している。

 ただ、一度委託すれば、契約期間は長期に及ぶ。その間、自治体は基本的に設備の保守や管理をする必要がない。市町村からノウハウを知る技術者がいなくなれば、運営権を取り戻しても、肝心の担い手がいない、との事態に陥る懸念は拭えない。

 国会で国民民主党の足立信也氏は、国が訴訟リスクを抱えている点も指摘した。給水に問題が生じた際、国が自治体の委託内容を許可する仕組みである以上、被告となるのは国、というわけだ。足立氏は、委託業者がリスクを負わないで済むおかしさも訴えた。

 18年1月。PFIの先進国、英国の会計検査院が行った調査報告が話題となった。PFIの対費用効果と正当性を調べたものだ。多くの事業が通常の公共事業より4割程度割高となっていることや、自治体財政に貢献していると立証するにはデータが足りない点などを並べている。

 これを受け、フィリップ・ハモンド財務相は10月末、金銭的メリットに乏しいことなどを挙げ「今後新規のPFI事業は行わない」と宣言している。

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