補正予算への組み替え、欠陥・割高品の購入等々
「日本はF35などたくさんの我々の戦闘機を購入しており、とても感謝している」——。
2018年11月30日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20(主要20カ国・地域首脳会議)で、米大統領のドナルド・トランプは首相の安倍晋三と会談した際の冒頭、このように発言した。トランプが大統領に就任する前から異例にもニューヨークに駆け付けて会見し、ゴ↘ルフクラブを贈呈して以降、これまで媚びの限りを尽くしている安倍にとって、強面の相手から「感謝」などと言われれば、喜悦の極みに違いない。
だが、会談に同席していた官房副長官の野上浩太郎は、「新たな購入が決定した事実はない」と記者団に「説明」したという。これまた、奇妙な話だ。米国の大統領が、「決定」されていないような日本政府の施策について、公式の場で「感謝」を口にすることがあり得ようか。
大盤振る舞いへの後ろめたさか
事実、会談から約半月たった翌月の12月18日、新「防衛計画の大綱」とそれに基づく5年間の兵器などの購入リストである「中期防衛力整備計画」(中期防)が閣議決定されたが、そこでは現在航空自衛隊が三沢基地に9機配備しているF35Aに関し、既に購入決定済みの42機に加えて新たに63機を追加購入した。これとは別に、海上自衛隊(海自)の護衛艦と称されているが実質的なヘリコプター空母の「いずも」級(2隻)を改良して搭載するという短距離離陸・垂直着陸が可能なF35Bを、42機新規購入する方針が打ち出されている。
今後、計105機分を新規購入し、将来はF35AとF35Bを計147↖機配備することになるが、これほど大規模の新規購入がわずか約半月前のG20開催の段階で「決定」していないはずがない。「決定」ではなく「内定」だと言われればそれまでだが、あえて日米首脳会談後に「新たな購入が決定した事実はない」などと否定するのも実に不自然だ。
うがった見方をすれば、この破局的な財政状態で、ここまで大盤振る舞いすることの「後ろめたさ」が、さすがに政府内部でもあるからではないのか。
何しろF35Aは1機当たり116億円とされるから、新規購入分だけで7308億円。特殊な仕様のF35Bは価格不明ながらより高価となるから、総計で2兆円を超すのは確実だ。何の必要性があってか、追加購入105機という常識外れの「爆買い」は、財政規律や他の予算との整合性などどこ吹く風の安倍の無軌道ぶりを如実に象徴している。
中期防ではF35AやF35Bのみならず、本来、防衛省・自衛隊が要求していなかった海自使用の「ミサイル防衛」(MD)のミサイルを地上に配備する「イージス・アショア」(陸上イージス、2基)や、無人偵察機「グローバルホーク」、早期警戒機E‐2D「アドバンスド・ホークアイ」などの新規かつ高額な米国製兵器が「官邸主導」で目白押し。その結果、中期防は現行(14年度〜18年度)を実に2兆8000億円も上回る27兆4700億円に達する。19年度予算案の防衛費は5兆2574億円で、この5年間で最大となった。
こうした安倍の高額兵器「爆買い」によって、様々な歪みが生じている。防衛省は18年度の第2次補正予算で、過去最大規模の約3600億円を要求。ところがこの金額は、19年度当初予算案の編成時に盛り込まれていた返済額の一部を組み替えて潜り込ませたものだった。
防衛省の言い分は、あまりに後払いの兵器のローンが高額となり、「19年度当初予算案の枠内に収まりきらないから」だという。だが補正予算とは本来、災害などで予算成立時に予想できなかった支出を補うためにある。それを、本予算の別枠のように補正予算で賄うなどということは、許されるはずがない。
これというのも、兵器の購入に当てる「正面装備費」は後年度負担と称したローン払いが可能で、その残高は19年度で約5兆3000億円にもなる見込みだからだ。これだけ多額の借金を抱えながら、さらに中期防で過去5年間より2兆8000億円も上乗せする兵器買いをするというのだから、尋常ではない。
補正予算を第2の本予算にするなどという邪道の手口でも使わなければとてもやっていられないのだろうが、こんなことが続けば財政の破局的状況をさらに悪化させ、社会福祉や教育にしわ寄せが及んで国民生活に支障が及ぶ。
ローン地獄でもトランプへの忖度優先
既に防衛省は昨年11月、取引先の企業62社を集めて、「発注する代わりに支払い延期を求める異例の要請を行った」(『東京新聞』12月13日付電子版)という。「ローン払いが急増し、当初予算を圧迫するようになってきたからだ」(同)というが、今後「発注する」と口約束してもまた多額のローンを抱える以上、発注分の「支払い延期」も起きかねない。
安倍は「日米同盟の強化」などというカビが生えたような決まり文句でトランプのご機嫌取りができれば満足なのだろうが、防衛省の今の姿は、ローン地獄に陥りながらも、ギャンブルか何かで借金が止められなくなった禁治産者に近い。
いくら安倍や防衛省が「一層厳しさを増す安全保障環境」(17年度『防衛白書』)などと深刻ぶろうが、対米従属で他国産兵器をろくに検討もせず、全て言い値に従い、欠陥品でも文句が言えない「対外有償軍事援助」(FMS)の適用で割高の米国製兵器を買わされている現実がある。そこには軍事合理性はおろか、「安全保障上、費用対効果の面で適正な装備体系は何か」という当たり前の検証が、存在しないのも同然なのだ。
その典型が、例のF35Aだろう。当初、42機の導入を決めた際は米国から輸入する完成品の4機を除き、残り38機を三菱重工が機体組み立てや一部の部品製造で国内生産する予定だった。ところが前述の追加導入措置が決定された際、全てが完成品の輸入に切り替わっている。
理由は、その方が1機当たり約30億円もの節約となるからとか。現行のF15戦闘機も国内生産だが、ならば最初から輸入に切り替えた方が割安のはず。ところが、「航空機製造技術の取得と継承」という名目で、大した技術移転も望めないのに、自衛隊幹部の天下り先企業に儲けさせるための官製談合で国内生産が優先されてきた。
そもそも米政府監査院は18年6月に発表した報告書で、同年1月時点でフル生産前にあるF35には計966点もの「技術的問題」が存在し、このままだと本格配備になったら莫大な機体改修費が発生すると警告している。
ならば日本でも、105機ものF35A・B購入の必要性が問われてしかるべきだった。しかし無視されたのは、結局、安倍の「トランプへの忖度」が先行したからだろう。もはや究極の血税私物化だが、それがもたらすだろう将来の恐るべき財政上の害悪についてろくに声が上がらないのは、奇怪と言うしかない。
(敬称略)
LEAVE A REPLY