21世紀半ばに世界に覇を唱えることを目標にしている中国。挑まれる側の米国との間で通商紛争だけでなく、安全保障面でも摩擦が深まり、「新冷戦」と言われるまで事態は先鋭化している。また、習近平政権が推し進める広域経済圏構想「一帯一路」では沿線国が「債務の罠」を警戒、親中姿勢を変えつつある。中国や米中関係は今後どうなっていくのか、中国問題の専門家・興梠一郎氏に聞いた。
なぜ習近平政権になってから中国は強権姿勢を示すようになったのですか。
興梠 いくつかの要因があります。政治的な要因としては、地方のリーダーをずっとやってきた習氏は北京に基盤がなかったことです。2012年に中国共産党の総書記に就いた時、胡錦濤・前総書記と江沢民・元総書記の2大派閥があり、院政を敷かれる可能性がありました。自分は傀儡に終わってしまうのではないかという恐怖感があったのでしょう。党員の汚職・腐敗の撲滅を名目に2大派閥を一つずつ切り崩していきました。まず、江沢民派の周永康氏を逮捕しました。政治局常務委員経験者は刑罰を受けないという慣例を破ったことで、「習氏に逆らうと、あんな大物でも逮捕される」といった恐怖感が党内に流れました。そうやって習氏の一強体制を築いていきました。また、父の習仲勲が迫害を受け、自身も文化大革命で陝西省に下放された際の体験や恐怖心から、敵を殲滅しないと安心できなかったのでしょう。
経済的な要因もありますか。
興梠 はい。中国経済が減速する時期にトップに就いたことです。2008年にリーマン・ショックが起き、胡錦濤政権は大公共事業を行い、何とか経済を立て直しました。しかし、その時の過剰生産や銀行の不良債権などにより、中国経済は構造的に減速し始め、2桁成長が望めない状況だったのです。そういう中で国内を統制し、党内で自分の地位を固めるために、これまでのトップ以上に強権的な政治になっていると思います。
国民に向けたキャッチフレーズを打ち出していますか。
興梠 新しいリーダーとして国民をまとめ、地位を確立するには新しいことを打ち出さなければいけません。例えば、鄧小平氏なら「改革開放」です。習氏は2012年に「中華民族の偉大なる復興を実現するという中国の夢」を打ち出しました。中国には様々な社会問題や経済成長の減速といった構造的な問題があるが、リーダーの自分が中国の栄光を取り戻すということです。中国共産党創立100周年の2021年までに「小康社会」(ややゆとりのある社会)を実現し、新中国建国100周年の2049年までに富強・民主・文明・和諧(調和の取れた)の社会主義現代化の国家を作ると言っています。「中国の夢」は元々、国防大学の教授が書いた本のタイトルで、その本は、アメリカに追い付き追い越せば、中国が世界のリーダーになると主張しています。それをヒントにしたという見方もあります。
具体的な政策は何ですか。
興梠 中国の影響力を世界に拡大していく上で「一帯一路」政策があります。これは、中国—中央アジア—欧州を結ぶ陸路の「シルクロード経済帯」(一帯)と、中国沿岸—東南アジア—インド洋—アフリカ・中東—欧州を結ぶ海路の「21世紀海上シルクロード」(一路)から成ります。中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)などを通して沿線国に融資し、中国企業がインフラを造っていくものです。特徴的なのは一路です。中国は大陸国家で、太平洋はアメリカに抑えられていることもあり、戦略的に海に弱かったのです。しかし、歴史的に海を制覇してきた国が大国であったこともあり、シーレーン(通商航路)をしっかり抑えていく方針を打ち出したのです。
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