五輪種目への採用も取り沙汰される中、どう対応するか
テトリスのようなパズル型ゲームから、サッカーやバスケットボールなどのスポーツを画面でプレイするものまで様々なゲームがあふれる中、世界保健機関(WHO)は2018年6月、「ゲーム障害(ゲーム依存症)」を新たな精神疾病に登録した。ゲームをする時間を制限できず日常生活に大きな影響を与えるゲーム障害への対応は、医療者のみならず社会全体で考えていく必↘要がある。にもかかわらず、ゲーム依存症を助長するかもしれない「eスポーツ」は、22年アジア競技大会の正式種目となり、五輪種目への採用も取り沙汰されている。依存症にならずにゲームとうまく付き合うことは可能なのか。
一口にゲームと言っても、様々な種類が昔から存在している。中でも依存症と関連して問題となっているのは、オンラインゲームと呼ばれるインターネットを利用したゲームだ。多数の人間がチームを組んで同時にゲームのストーリーを進めていくものや、他のプレイヤーとネット上で戦うもの、単にネットを使うだけで対戦や協働は不要なものなど様々な種類がある。
パソコンだけでなく、スマートフォンやタブレットなどネットに簡単に繋がるツールが増え、ゲームをする環境がどこでも整うことから、オンラインゲームの種類やプレイ人口も増加。それとともに、ゲーム障害の患者も増えているのだという。
経済や健康など広範囲に及ぶ悪影響
この問題に詳しい専門家によると、「ゲームをすること自体が悪いわけではないが、そのために日常生活に影響が出たら問題となる」という。WHOが18年6月に公表した新たな疾病分類では、ゲーム障害はギャ↖ンブル依存症などとともに、精神神経系の病気に位置付けられた。ゲーム障害と判断される基準は①ゲームをする時間や頻度を制御できない②日常生活や生活上の関心事よりゲームを優先する③問題が起きてもゲームを続ける④ゲームにより個人や家庭、学業、仕事に重大な支障が出ている——の4項目が12カ月以上続く場合。単なるゲーム好きではなく、長期にわたり日常生活に重大な影響を及ぼすのが特徴だ。
「たかがゲームと思われがちだが、特別なアイテムなどを手に入れるため信じられないほど高額な課金をして経済的な問題を抱える他、体を動かさないことによる健康被害、昼夜逆転の生活などゲーム障害による悪影響は幅広い範囲にわたる」と依存症に詳しい専門家は語る。韓国では、20代の男性がネットカフェで体を動かさず、長時間ゲームをしたことで急性肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)を発症し死亡した例も報告されている。視力の低下や、体を動かさないことによる体力低下、昼夜逆転など生活の乱れによるうつ状態の増加なども心配される。
ギャンブルなど他の依存症とは異なる点もある。患者の多くが若いことだ。11年にネット依存症の外来を国内で初めて設置した久里浜医療センターの調査では、ネット依存の患者の9割はゲーム依存で、7割近くは未成年だった。子供の脳は成熟しきっていないため、大人に比べて依存症になりやすいという。
さらに、オンラインゲームの持つ性格が、ゲーム障害を引き起こしやすいという指摘もある。「オンラインゲームではチームを組んで戦うことで、ネットの向こうに〝仲間〟ができる。仲間から必要とされたり頼りにされたりすると自己肯定感に繋がり、ゲームから離れられなくなる若い人が多い」(専門家)。
だが、一度はまってしまうと回復への道は険しい。アルコールや薬物など他の依存症と同様に、ゲーム障害も息の長い治療が必要となることも多いという。
「eスポーツはスポーツなのか」
もっとも、ゲームには負の要素ばかりあるわけではない。オンライン上の仲間と交流することは悪ではないし、度が過ぎない限りにおいてはゲームが生活を豊かにする側面もあるだろう。また、対戦型ゲームの一部は「eスポーツ」として、新たなスポーツに位置付けられつつある。「海外を中心に高額な賞金を掲げる大会があり、賞金で生活するプロゲーマーも存在する。eスポーツの市場はどんどん拡大しています」とゲーム業界関係者は語る。
事実、アジアオリンピック評議会が主催するアジア版五輪といえる「アジア大会」では、18年大会で初めてeスポーツが公開競技として実施され、次回(22年)は正式種目になることが決まった。この流れが報じられると、「五輪でも正式種目になるのでは」という憶測が飛び交い、「eスポーツは果たしてスポーツなのか」という議論も白熱した。
全国紙のスポーツ担当記者は「eスポーツの選手というべきか、ゲーマーというべきか。境目があるわけではなく表現が難しい」と語る。直接体をぶつけ合ったり同じ場所でプレイする競技ではないが、同時に別の場所から参加することができ、瞬発力や判断力が求められる点はスポーツと言えなくもない。この記者によると、「eスポーツを五輪競技にするべきかどうかの議論は国際オリンピック委員会(IOC)でも進められている。現時点では否定的な意見が強いが、パラリンピックでの実施はどうかという議論もあり注目されている」という。
確かに、高齢であっても体に障害があっても外出が難しくても、パソコンやコントローラーを動かせれば関係なく楽しめるのがeスポーツだ。この先、センサーを利用した「センシング技術」によって、目や口の動きで操作できるeゲームが誕生するかもしれない。そうなれば、寝たきりの人、手足を動かせない人もプレイできる可能性が高まる。「運動能力が高くなくても勝負に勝てる可能性がある。スポーツは苦手だと思っていた人にも門戸を広げるという意味で、ゲームのスポーツ化は悪くないと思う」(同記者)。障害のある選手とない選手が同じゲームで競い合うことも可能で、「オリンピックとパラリンピックの垣根を取り払う可能性がある」と肯定的な意見もある。
ただ、プロの選手になるためには相当長いプレイ時間が必要となることは間違いなく、依存症のリスクは高まる。健康を促進する目的で行うスポーツで健康を損なうことはあってはならず(もっともスポーツ選手は怪我が付き物だが)、依存症のリスクを低減させながらゲームを上達させる方策が必要となるだろう。
ゲーム障害の患者は、食事をとらない、家に引きこもる、朝起きられないなどの生活上の問題を抱えることが多い。プロスポーツであれば、コーチが練習時間や方法を制限したりアドバイスしたりするわけで、eスポーツでもコーチが必要となるかもしれない。
前出のスポーツ担当記者は「プロのスポーツ選手は、自分のベストパフォーマンスを出すためコンディションを調整するのがうまい。eスポーツも同様に、プロを目指すなら自分で自分をコントロールすることが大事だ」とアドバイスしている。
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