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未来の会

第107回 タミフルで精神症状-新情報

第107回 タミフルで精神症状-新情報

 タミフル服用後の異常行動からの事故死や突然死が報告され、2007年3月、10代への使用は原則として禁止された。しかし、2018年5月、厚生労働省(厚労省)はタミフルとの因果関係はなく、異常行動などはインフルエンザのためと判断して、2018年8月21日、禁止措置を撤廃し、添付文書を改訂した。 

 筆者らは2005年以降、タミフルによる異常行動や突然死の害について症例報告1)や疫学調査報告2)をしてきた。前向きコホート研究でも非服用者に比較して異常行動やせん妄が多いことが報告されている3)。筆者も参加したコクランのシステマティックレビュー(コクラン報告)では、ランダム化比較試験(RCT)のメタ解析でタミフルが精神症状を1.8倍増加させることが示されたが、ザナミビルでは認められなかった4)。WHO(世界保健機関)は、コクラン報告を受け、タミフルを必須薬剤の主要リストから補助リストに格下げした。

 インフルエンザは自然に治癒する感染症であり、世界的に抗インフルエンザ剤はほとんど使用されていないが、日本でのみ欧州各国の数十倍から1000倍超を使っている。

 厚労省は因果関係を否定したが、異常行動や精神症状の重症例との強い関連を示す疫学調査が最近相次いで2編報告された。その概略を紹介する。

重篤な異常行動が29倍起こりやすい

 藤田らの前向きコホート研究3)のデータを用いFukushimaら5)は「事故につながりうる重篤症例=異常行動A」(タミフル使用24人、非使用4人)を抽出し、自己対照ケースシリーズ法により解析。タミフル使用時の、非使用時に対するリスク比を、各種要因を調整して求めた。タミフル使用期間と非使用期間のとり方で危険度が異なってくるが、リスク比は1.9から最大29(95%信頼区間[CI]:4.21–201)であった。最大リスク比は、タミフル服用から約6時間を影響期間として採用した場合である。

 Fukushimaら5)は、この期間は、高熱期と重複しているため、タミフルの影響とは必ずしも言えない、としている。しかし、藤田ら2)のデータによれば、せん妄の1000人日当たり発生率は、高熱時、非服用状態の約5人に対して、タミフル服用後は最大で30人を超えている。従って、発熱期には、タミフル使用により、せん妄がより起こりやすく、重症異常行動(A)もタミフルで起こりやすくなると考えられる。

重症の精神症状が35倍起こりやすい

 コクラン報告4)では、タミフルの治療試験で、精神症状の頻度が用量依存性に増加し、予防試験でプラセボ群に比較して有意に高頻度(NNTH=約100)であったが、リスク比は1.8とそれほど高くなかった。

 Jonesら6)は、精神症状を重症度別に検討し、症状持続期間の要素を取り入れ、ロジスティック回帰法で分析した。全例でオッズ比3.46(95% CI:1.28-9.32)、グレードIII以上の重症精神症状は、オッズ比34.5(95% CI: 3.66-325)であった。中等症精神症状が210人に1人、重症精神症状は、230人に1人の割合でタミフルにより発症し高頻度であった。

 Jonesら6)は、これらの結果は、タミフルと精神症状との間の因果関係を示すエビデンスとなると、明瞭に述べている。


参考文献
1) Hama R. Int J Risk Saf Med. 2008;20:5–36.
2) Hama R. et al. Int J Risk Saf Med 2011;23:201–215.
3) 藤田利治ら、薬剤疫学2010:15(2):73-90.
4) Jefferson T et al. Cochrane Database Syst Rev. 
 2014;4:CD008965
5) Fukushima W et al. Vaccine 2017: 35: 4817–24
6) Jones M et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2018;27:1217-22

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