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ノーベル賞受賞で表に出た「本庶   vs.小野薬品」冷たい戦争

ノーベル賞受賞で表に出た「本庶   vs.小野薬品」冷たい戦争

 今年のノーベル医学生理学賞を受賞した京都大学の本庶佑・特別教授の発言を巡り、本庶氏とその研究成果を抗がん剤「オプジーボ」(一般名・ニボルマブ)の形に結実させた小野薬品工業との間の〝冷戦〟が話題になっている。

 「発端はノーベル賞受賞会見で、本庶氏が発した一言。『小野薬品は研究では全く貢献していません』と言い放ち、ちょっとした騒動になりました」(全国紙科学部記者)。本庶氏はノーベル賞の賞金と小野薬品がオプジーボで得たロイヤルティー収入の一部を使って研究者支援の基金に充てる構想も明らかにしたが、これも小野薬品側の了解を得ていたわけではなかった。

 ノーベル賞に選ばれた本庶氏の研究は、「免疫を抑制するタンパク質PD‒1を発見して、新たながん治療の道を切り開いた」というもの。がん細胞にはPD‒1と結び付くPD‒L1という分子があり、二つが結合するとがん細胞への攻撃を控えるよう求める指令が出る。このブレーキを解除して免疫を活性化させる新たなメカニズムを利用して、小野薬品が2014年に発売したのがオプジーボだ。

 一般には、「日本の研究者と日本の製薬企業が手を携えて、画期的な新薬を開発した代表格」として美談で伝えられていたオプジーボ。ところが事情を知る科学部記者によると、本庶氏と小野薬品の関係がうまくいっていないのは周知の事実だったという。「本庶先生の取材に行くと、会見時と同じような小野薬品への〝恨み節〟を聞くことは多かった。小野薬品も本庶氏が折に触れてそうした発言をしていることは把握していた。ところが会見で、それが表に出てしまった」(同記者)。

 製薬企業に詳しい業界関係者によると、「今でこそオプジーボのような成功例が出て状況は変わったが、免疫に働き掛ける薬の開発は難しいとして当初、製薬各社は尻込みした経緯がある」という。小野薬品が何とか前向きな姿勢を示したものの、生産ラインへの投資など莫大な開発コストがかかり、決して「大手製薬」と言えない小野薬品との〝共同作業〟はストップしかねない危機を迎えたこともあった。本庶氏が海外の支援先を探すなど、海のものとも山のものともつかぬ段階での研究継続は、苦労の連続だったという。

 本庶氏の受賞を受けて小野薬品は「共同研究を実施することができた巡り合わせに感謝しています」とコメントしたが、このコメントに「小野薬品にさんざん苦労させられた」と感じていた本庶氏がカチンと来たというのが真相のようだ。業界関係者は「基礎研究は大学で、とする企業側と、企業の支援を受けて研究を進めたい大学側の考えの違いもあるのだろう。共同研究といっても、共同の中身や貢献度はまちまちだ」と語る。

 本庶氏の功績がノーベル賞としてお墨付きを得たこともあり、10月中旬になると、「オプジーボで儲けておきながら、若手研究者の支援金を出し渋る小野薬品」と小野薬品にマイナスな報道も目立ち始めた。「お祝いムード」を前に発言を控えていた小野薬品だが、同月下旬以降は相良暁社長が報道各社のインタビューに答え、「小野薬品も研究に貢献した」と反論。基金も「否定はしない」「いい話だ」などと語り、柔軟な姿勢を見せた。

 「企業はどうしても、採算性を考えながら研究を進めなければいけない。だからこそ、採算性を考えずに研究できる環境を、国の支援でアカデミアの現場に整えてほしいというのが製薬企業側の考えだ」と業界紙記者。しかし、借金大国となった現在の日本ではそれは難しい。企業の研究開発費にも限りがある中、結局は「目利き」に成功した企業が生き残るというのが現実なのだろう。

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