保健福祉省の概要
HHS(Department of Health and Human Services:保健福祉省)は日本で言えば、厚生労働省のうちの厚生省に当たる省である。AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)設立の元となった組織であるNIH(国立衛生研究所)を傘下に置いており、保健福祉サービスを効率的に提供するとともに、科学の安定的かつ持続的な発展を促すことにより、米国民の保健福祉の向上を図ることを目的とする米国連邦政府機関である。
また、日本のPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)に当たるFDA(食品医薬品局)も傘下においている。FDAは2016年には常勤換算で1万6205人、予算は47億ドルという巨大な組織である。医薬品や医療機器などの審査を行っている組織なので、その審査のスピードが問題になる。ちなみに日本のPMDAは1300人ほどの組織で、2016年度の審査速度はFDAより速かったという(もちろん、速さのみを競っても仕方がないし、そもそも審査した対象の医薬品や医療機器は異なっているが)。
ということで、HHSは連邦レベルでの医療行政、医薬品の承認審査、安全対策、メディケア(高齢者及び障害者向け公的医療保険制度)/メディケイド(低所得者及び身体障害者向け公的医療保証制度)における保険者機能、政府系医療機関の運営、疾病対策、試験研究や研究開発などを所管している。
組織構成は長官官房と11部局から構成される(表参照)。長官官房はワシントンDC市内の連邦議会議事堂近くのHHS本部ビル内に配置されている。HHSの実務に当たる11部局はACFとAoAがワシントンDC、ATSDRとCDCはジョージア州アトランタ、残りはDC近郊のメリーランド州(ロックビル、ボルチモア、シルバースプリング、ベセスダ)に点在する。日本の研究者が留学することもあるNIHはベセスダにある。また、日本の地方の厚生局のように全米が10地区に分けられている。
AHRQの目的とTeam STEPPS
AHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality)は1989年に設立された部局でメリーランド州ロックビルに所在し、医療の質に関わる研究(コスト削減、医療サービスへのアクセス拡大等)を推進し、医療の質と、その安全性、有効性の改善を図る組織である。
九つの主な部局及びセンターから構成されており、今回訪問したCenter for Quality Improvement and Patient Safety(医療の品改善及び患者安全センター)はその一つで、その他プライマリーケア/予防及び医療協力センター、医療財政/アクセス及びコストトレンドセンターなどがある。
医療ミスや医療事故がなかなかなくならない原因として、AHRQはヘルスケア分野が技術的に組織的にまた管理においても非常に複雑で難しいことを第一に指摘している。さらに、ヘルスシステムがシステムに起因する問題を解決したり、最大限に安全にしようとしたりするように設計されてないこと、患者と医師、医師同士などのコミュニケーションが円滑になされていないことなどを挙げている。
AHRQの優先目的としては、①ヘルスケアに関連した医療事故の原因を究明し、どうやってそれを予防すべきかを考えること②患者にとっての安全性を改善できる知識を世の中に広めること③耐性抗生剤などを減らすなどして、ヘルスケアに関連した感染を減らすこと④医師や患者など医療提供者側も含めコミュニケーションやエンゲージメントを改善すること⑤安全文化に貢献するようなシステムを構築すること——が挙げられている。
ここで有名なのは、日本でも普及が進んでいるTeam STEPPS(Team Strategies and Tool to Enhance Performance and Patient Safety:医療のパフォーマンスと患者にとっての安全性を高めるためにチームで取り組む戦略と方法)である。これはチームワークを作るためにすぐに使えるツールやトレーニングカリキュラムである。 AHRQと米国防衛総省のヘルスシステム部門との共同事業により開発された。米国での成功例の一つとしては、本連載でも取り上げたカイザーパーマネンテ(カリフォルニア州)にこの方法が導入され、帝王切開の頻度を増やすことなく2015年から2017年において陣痛誘発剤を使う頻度が15%減った、といったものが挙げられる。
全体を総括して印象的であったのは、管理ではなく病院の自主性や安全文化の構築が主眼であると言い切っていた点であった。
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