SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

東京医大「追加合格」がもたらす来年度入試の〝地獄〟

東京医大「追加合格」がもたらす来年度入試の〝地獄〟
留学生も飛び級生も〝差別〟されていた!

東京医科大学の不正入試問題の余波が収まらない。文部科学省は全国の医学部入試を調査するも、不適切な疑いがあった学校名については「自主的な公表を促す」と明かさず仕舞い。これに対して、自主的に公表したのは昭和大学のみで、他は様子見ムードだ。第三者委員会を設置して徹底調査した東京医大と昭和大のみが貧乏くじを引いた展開は、今年度の医学部入試を目指す受験↘生に大きな打撃を与えている。

 新学長の初仕事は謝罪となった。一連の汚職事件で辞任した前学長の後を受けて就任した東京医大の林由起子学長は11月7日、記者会見で不正入試が行われてきたことを謝罪。昨年と今年の医学部医学科の入試で行われた得点操作により、本来は合格だった可能性があった受験生が計101人に上ることを明らかにした。

 その内訳は2017年度入試が32人(男子16人、女子16人)、18年度入試が69人(男子18人、女子51人)。101人は本来なら合格していた可能性がある受験生だが、来年度入試(19年4月入学者対象)で合格を認める枠は最大63人まで。希望者が上限を超えた場合は、成績上位から順に入学を認めるという。

 首都圏の予備校関係者は「林氏自身が101人という数字に『あまりに多くて愕然としている』と語っていたが、2年でこの数字は多過ぎる」と憤る。医学部の定員は増やせず、同大の一般入試の定員は75人のまま。「101人全員が入学を希望しないまでも、定員の半数は追加合格者で埋まるのではないか。今年度の東京医大の入試は相当な狭き門になる」と受験生への影響を慮る。

多様な要素を秘密裏に不利と判定

 実は、東京医大が〝差別〟したのは、女性や浪人回数の多い受験生だけではない。同大が会見を開く2週間前に中間報告を公表した第三者委員会は、同大が飛び級や海外の高校出身者らも差別していたと指摘した。高卒認定試験の合格者や高等専修学校の出身者、高校の欠席日数が多い受験生など、多様な要素が秘密裏に不利と判定されていた。

 逆に、卒業生の子供の「裏口入学」については、1次試験で各科目に分散して加点したり、推薦入試で小論文に加点したりと、手が込んだ優遇策となっていた。前出の予備校関係者は「同窓生や言うことを聞きそうな同質な受験生を求める気風が伺える。単なる教育機関でなく、大学病院で戦力となる学生を求めているのがありありと分かる」と分析する。

 だが、不正は同大では留まらなかった。8月以降、全国81大学の医学部医学科を対象に文科省が行った調査では、一部の私大で特定の受験生を有利にするなどの不適切な事例が複数確認された。10月末に調査結果を明らかにするとしていた文科省だが、その前に得点操作が疑われる大学として順天堂大、昭和大の名前が全国紙で報じられてしまった。

 これを受けて会見を開いた昭和大は、13年以降の一般入試の2次試験で現役と1浪生に一律に加点していたこと、卒業生の子供計19人を補欠合格者の中から優先的に合格させたことなどを明かした。

 しかし、小川良雄・医学部長は女性の受験者を不利とした東京医大のような〝男女差別〟はなかったと語気を強めて否定。「現役生や1浪生の方が入学後の伸びが良く、将来性が高いと考えた。募集要項にも総合的に評価すると記しており、不正とは考えていなかった」と戸惑いも覗かせた。

 一方、昭和大と同様に「不正疑惑」が報じられた順天堂大は会見を開かず、10月末時点で不正を認めていない。同大関係者は「男女の合格率の差について文科省から説明を求められたことは事実だが、不正かどうかは見解が分かれる」と話しているという。他大学も同様で、「全国医学部長病院長会議」が検討を始めた医学部入試に対する考え方がまとまるのを待つ方に足並みをそろえた。

 全国紙記者は「医師国家試験で不正があったら許し難いが、私立医大の入試に裏口があるのは〝裁量〟の範疇だと多くの人が考えてきた。ところが、東京医大の汚職事件が医学部入試というパンドラの箱を開けてしまった」と語る。

 文科省は順天堂大、昭和大の疑惑が報じられた後の10月23日に調査の中間まとめを公表したが、不正が疑われた学校数や学校名については口をつぐんだ。担当記者は「文科省は大学の自治を尊重して自主的な公表を促すとしてきたが、不正に当たるかどうかの解釈が大学側と異なっている例もあるようで、医学部長病院長会議の対応などを踏まえて改めて公表するかどうかを検討するようだ」と話す。どこまでが「大学側の裁量」とされるのか、しっかりした線引きが難しいが故に「不正」の認定が難しいというのだ。

在校生や卒業生の憤り聞こえない訳

 もっとも来春の入学を目指して医学部入試を受ける予定の受験生には、情報公開は待ったなしだ。

 「11月から推薦入試の出願が始まり、12月には一般入試の出願も始まる。どの大学がどんな不正をしてきたかは志望校を選ぶ判断基準となるが、それが分かる前に受験校を決めなければいけない時期になってしまった」と予備校関係者。来年度入試から全ての大学で女子や浪人生に対する〝差別〟や同窓生の子女に対する特別扱いがなくなれば良いが、「文科省と見解の相違があるということは、見直す予定はないとも受け取れる。そうであればせめて早めに公表してほしい」と予備校関係者は受験生に対する早期の情報公開を望む。

 東京医大は一連の不正による受験生離れを避けるため、20年春入学の新入生から、6年間の学費を1000万円減額し、約1980万円とする方針を決めたという。しかし、来年の新入生には適用されない。教育関係者からは「今年度の受験生は枠が少なくなり、前年度と合格の傾向が変わるかもしれず、本当に踏んだり蹴ったりだ」と同情の声が漏れる。

 それに対して、「浪人を経験した在校生や卒業生の女性からあまり憤りの声が聞こえないのが、この問題の根深いところだ」と指摘する医療担当記者もいる。通常であれば、自分達も差別されてきたのだから怒って不思議ではないが、「女性医師に話を聞いても、仕方がないと理解を示す人が多い。基本的に〝勝ち組〟である彼女らには、自分達はそうした不正もくぐり抜けて医師になったというプライドが強い」と記者。都内の総合病院で働く若手女性医師は「医師になってからも、女性は様々な局面で困難にぶつかる。まずは入試での差別くらい乗り越えて医学部に入ってきなさい、という思いがある」と本音を明かした。

 この女性医師は「文科省の入試改革より、厚生労働省が進める医師の働き方改革に注目している」と苦笑する。現場で求められているのは、入試の透明化より女性医師が働きやすい職場作りだ。厳しい受験を乗り越えた医学生には、せめて働きやすい職場が用意されていてほしい。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top