改造内閣の目玉だった片山さつき・地方創生担当相が「口利き問題」で〝文春砲〟にさらされ、米国のトランプ大統領からは「貿易不均衡」をとがめられ、頼みの綱の経済も株価の乱高下で先行きが怪しい。第4次安倍晋三改造内閣は滑り出しから躓き気味だ。自民党幹部によると、焦眉の日米貿易摩擦問題と憲法改正には〝毒薬〟が仕込まれており、うまく解毒できなければ政権は窮地に陥るという。さて〝毒薬〟の正体は?
10月末、首相官邸に衝撃が走った。韓国大法院(最高裁)が日本企業に元徴用工への損害賠償を命じる判決を下したのだ。韓国での戦後補償訴訟で、日本企業への賠償命令が確定するのは初めて。元徴用工の請求権問題に関して、日本政府は1965年の日韓請求権協定で解決済みとしており、安倍首相は「今般の判決は国際法に照らして、あり得ない判断」と強く非難した。
日韓請求権協定は国交の基礎となっており、これを覆されたのでは両国関係は成り立たない。自民党内でも「韓国は何を考えているんだ」と怨嗟の声が相次いだ。外交通で知られる自民党幹部はその様子を冷ややかに見ていた。
「異常な判決で論外なのだが、詰まるところ、韓国が国際社会から仲間はずれにされるだけの話だろう。日本はメンツを潰されたが、実害は案外少ない。それより、米国なんだよ。トランプ大統領がとんでもないことをやっている。〝毒薬条項〟を仕込んでしまったんだ。米国は国際社会から仲間はずれにされることなんか気にしない。やっかいだ」
米中超大国の狭間で経済交渉は難航?
毒薬条項とは、その条項を発動すれば、契約そのものをご破算にできるというものだ。元々は経済用語で、企業の敵対的な買収への対抗策などに使われてきたが、近年は国際協定などでもしばしば登場する。
自民党幹部が懸念しているのは、米国がメキシコやカナダと合意した新たな自由貿易協定に、その毒薬条項が盛り込まれたことだ。中国との自由貿易協定を厳しく制限する意図があり、別名〝中国条項〟という。
新たな自由貿易協定は、これまでの北米自由貿易協定(NAFTA)を改めたもので、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)と呼ばれる。米国第一主義を掲げるトランプ政権が主導し、9月末までに合意された。
毒薬条項の概要は「3カ国のうち1カ国が〝市場経済ではない国〟と自由貿易協定を発効させれば、他の2カ国はこの協定を打ち切ることができる」というものだ。
〝市場経済ではない国家〟とは持って回った言い方だが、中国の市場が共産党独裁下の国家にコントロールされているというのは世界の常識だ。米議会調査局が議員向けに配布したレポートには「非市場経済の国家(例えば中国)」と書かれてあり、中国を意識したものであることは疑いない。そこから中国条項との別名が付けられた。
自民党幹部は、これが「対岸の火事」では済まされないとみている。米政府は日米間の「日米物品貿易協定(TAG)」交渉でも、同じように毒薬条項を組み込むよう要求する構えだというのだ。日本は、中国も参加して年内の妥結が模索されている「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」を積極的に推進している。米国が本気でTAGに毒薬条項を盛り込むつもりなら、日本のRCEP参加にも反対する可能性があり、安倍政権は難しい立場に追い込まれるという。
トランプ政権は、過度なブラフ(脅し)が持ち味であり、日米交渉で毒薬条項が本当に持ち出されるかどうかは分からない。しかし、米国と経済的な結び付きの強いメキシコやカナダとの間で持ち出されたのだから、少なからず日本との交渉にも影響を与えるとみておいた方が良さそうだ。
米中両大国の経済覇権争いは激しさを増し、世界的な株価の乱高下の要因の一つになっている。中国は米国への対抗手段として、日本との関係改善に舵を切り、アジアをまとめる方向に動き出している。日本の首相としては7年ぶりとなる安倍首相の中国公式訪問もこうした流れの中で実現した。ただ、中国との急接近は、米国の疑心を招くという副作用も伴う。冷え切ったとされた中国との関係改善は朗報なのだが、日本を含むアジア諸国の領海を脅かし続ける中国の覇権主義が簡単になくなる訳ではあるまい。米国と中国という二つの超大国の狭間で、日本は難しい判断を迫られる場面が増えそうだ。
「好むと好まざるにかかわらず、米国と中国の橋渡し役というのが今の日本のポジションだろうな。米中のケンカをこのまま放置すれば経済がガタガタになって、世界中が困る。毒薬条項の処理で、日本の力量が問われることになるだろう。一見地味だが、これは消費増税の実施などにも関わってくる重要な問題なんだ」。自民党幹部はそう見ている。
改憲ごり押しなら公明は政権離脱も
一方、内政問題では、自民・公明連立政権の根幹で、連立解消という毒薬条項発動の可能性が取り沙汰されている。安倍首相の「改憲前のめり」姿勢が原因だ。史上最長政権を視野に入れる安倍首相にとって改憲は後世に残す「最大のレガシー(遺産)」との位置付けだ。過去に誰もできなかった「9条改正」がその眼目であり、10月末の臨時国会で「今を生きる政治家の責任。国民のために命を賭して任務を遂行する自衛隊員の正当性の明文化、明確化は国防の根幹」と力説した。
野党は一斉に反発。立憲民主党の枝野幸男代表は「憲法は首相の理想を実現するものではない」と突き放し、改憲に理解を示す国民民主党の玉木雄一郎代表も反対姿勢を鮮明にした。ここまでは、いつもの光景なのだが、今回は状況が違った。公明党の山口那津男代表が「拙速な議論は避けるべきだ」と異を唱えたのだ。
自民党幹部よると、「首相が改憲に前のめりになるほど、公明党は野党化する図式は従来からあるが、今回はこれまでとは次元が異なる」という。公明党の支持母体・創価学会が「自衛隊を明記する9条改正」に真っ向から反対しているというのだ。引き金は、沖縄知事選での与党推薦候補の敗北だった。創価学会は原田稔会長が沖縄に飛ぶという異例の選挙態勢で臨んだ。結果は惨敗。「オール沖縄」を掲げて勝利した玉城デニー知事(前自由党幹事長)の支援の輪の中で創価学会の3色旗が翻り、学会員の造反が露呈した。支持母体の惨状を目の当たりにした公明党内には「平和の党という原点を失えば、党は壊滅する」との危機感が広がっており、連立解消という毒薬条項の発動が囁かれている。「自公連立の政策合意の中に9条改正の項目はない。自民党が平和の党という我が党の存立基盤を無視するのなら、劇薬も毒薬もあり得る」。公明党幹部はそう語る。
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