日本には世界に誇る国民皆保険を基盤とする素晴らしい医療提供体制があるが、抱えている課題も多い。最近は医学部の不適切な入試が問題になったり、外国人に対する医療も、健康保険の不適切な使用を含めて大きな問題となったりしている。医師でありながら参議院議員として活躍し、自民党政務調査会「外国人観光客に対する医療プロジェクトチーム」事務局長、「在留外国人に係る医療ワーキンググループ」事務局長として、問題の解決に尽力している自見はなこ氏に話を聞いた。
——現在の日本の医療をどう見ていますか。
自見 いろいろな課題があるとはいえ、とても質の高い医療が提供されていると思います。他国を見ても、これほどの医療制度はなかなか見当たりません。高額療養費制度があって本人の自己負担の上限が決まっているとか、指定難病制度が存在しているとか、そういう制度を長年維持できたことはすごいことです。このような社会保障制度があるから、国が安定しているのだろうな、と思います。これは、政治と行政と医療関係者のたゆまぬ努力のおかげだろうと思います。
——課題となるのはどのようなことでしょう?
自見 たくさんあり過ぎます。医療費を含めた社会保障費の増大を、国の財政負担の限界が近づいている状況で、どうしていくのかという問題があります。高額薬価の問題もあります。医療のイノベーションの問題、例えば新薬開発の問題があります。データヘルスの分野では、医療情報を安全に管理するための仕組みを構築した上での連携や、またパーソナル・ヘルス・レコード(PHR、生涯型電子カルテ)ももっと推進していく必要があります。そして、こうした総合的な政策の組み合わせによって、健康寿命の延伸や財政負担の適正化に繋がっていくと思います。今、なぜそれをやらなければならないかというと、日本で人口減少と高齢化がこれから急激に進展していくからです。人口動態は中長期で予測できるので、制度論はじっくり取り組みつつも、サーフィンで波に乗るように、変化の早い部分には迅速に対応していく必要があります。
女性医師の働きやすい環境が必要
——医学部入試問題についてのお考えは?
自見 受験生に説明責任の果たせない形で、枠がある、あるいは一律に何かを行うということは、あってはならないことです。性による差別について、憲法のもとにある教育基本法では、教育の機会均等の中に、男女ともに平等でなければならないことが謳われています。世界に目を転ずれば、マララ・ユスフザイさん(パキスタン出身の女性人権活動家。2014年ノーベル平和賞受賞者)のように、女性が学問することのために命をかけて活動している人もいます。女性の学問する権利を守ることは当然です。これまでの議論にあったロジックは、出口部分の働き方が女性に適していないので、入口ですぼめさせてもらうよ、というものです。現代にあっては、全く逆で、出口の方を直さなければいけません。現在の医療・福祉の現場では、女性医療職が全体の75%です。働き方改革が進む中、女性医療職が働きやすい職場でないと、医療界の存続はないのではないかと思っています。
——女性医師が増えても問題はない?
自見 その議論で大変違和感を覚えるのは、女性だから外科には行かないだろうという決めつけです。実際は外科をやりたい女性も多いはずですよ。ワークシェア(仕事の分かち合い)ができれば、診療科については、違う議論も出てくるのではないかと思います。働き方こそが問題なのです。ところが、女性医師が多いと診療科の偏在が進むと言われたりします。全く失礼な話で、そういう働き方しか提供できていないから、ある診療科に偏るということが起きているわけです。出口と入口の議論をはき違えています。例えば、外科ではワークシェアが進んでいて、皮膚科は現場にずっと貼り付いていなければならない状況だとしたら、どうなるでしょうか。ただ、医師の配置を集中させていくということは、すなわち地域医療計画に関わることなので、今までの前提が崩れた場合、この話は、複雑になります。
医学部入試調査での文科省の在り方
——医学部の不適切な入試が発覚しました。
自見 例えば厚生労働省で労働基準監督署が調査に入るような場合には、しかるべき基準があります。また、法律で定められた調査権のもとに立ち入りを行うわけです。今回、文科省は自らの不祥事である東京医科大学事件から入試の関わる不適切な事例が明らかとなり、数校に対して立ち入り調査を行い、その後全数調査に切り替えました。しかし、文科省が毎年公表している入試の実施要項には公平・公正に行うことという大枠だけで、実際の入試の仕方は、大学の裁量に長年任せてきました。それ自体は、学問の自由や大学の自治という観点から適切です。今回の問題は、いわゆる“基準”が設定されていないのに、立ち入り調査をしたところにも、一つの混乱の原因があるわけです。また、10月の厚労省医師需給分科会で、過去10年間にわたり幾つもの医学部で地域枠の増員分を一般入試で埋めていたことも明らかになりました。ところがここに関しては、同じ入試の話ですが、文科省は消極的でした。長年の地域医療を支えたいという政治の努力を無にするような不誠実な運用を放置していた行政の責任は重たいです。文科省と厚労省にはよく連携し、一貫性のある行政の在り方について今一度落ち着いて考えてほしいです。
——どうすれば良かったのでしょう?
自見 11月半ばに全国医学部長病院長会議が医学部入試に対する公平公正な在り方について規範を示しましたが、それをもとに大学が自浄作用を発揮しつつ、同時に文科省は、医学部だけでなく大学の入試の公平性の在り方についての全体を俯瞰した検討の場を作るべきです。大学の自治と学生の選考は、シングルイシューにできるような簡単な話ではないと思います。
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