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未来の会

介護現場に広がる「悪質セクハラ」

介護現場に広がる「悪質セクハラ」
公的サービス故に断れない事情も

 「セクハラ」に世間の耳目が集まる中、介護業界のあまりにも深刻な現実が明らかになりつつある。利用者だけでなく、その家族からの性的な嫌がらせも確認されるなど、介護現場ではセクハラが横行しているというのだ。

 人手不足の中、介護業界にはハラスメントを放置しては離職者増に繋がるという危機感があるはずだ。ところが、余裕のなさから「個人で対処すべき」と何の対応も取らない事業者もいるといい、厚生労働省も対策の検討を始めた。

 「アンケート調査で悲鳴とも言える現場の声が明らかになった。国としてもハラスメントへの対応をお願いしたい」

 8月9日、介護現場のハラスメントの対応を取るよう求める厚労大臣宛ての要請書を鈴木俊彦事務次官に手渡したのは、介護職員ら約8万人からなる労働組合「日本介護クラフトユニオン」の久保芳信会長だ。

 「世界的な『#MeToo(ミートゥー)』運動の広がりや財務省の事務次官のセクハラ問題で、セクハラやパワハラといったハラスメントに関心が集まっている。この時を逃すまいと介護業界もようやく動き出したという印象です」(全国紙の社会部記者)。

 ユニオンの要請は利用者への周知啓発から法整備まで広いが、「介護業界の労働環境を改善しなければ、ますます人手不足が進む。厚労省としてきちんと対策を打ち出す必要があると危機感を共有させたかったのだと思います」(同)。

介護職の約3割にセクハラ経験

 ユニオンが改善を訴える根拠としたのは、組合員を対象に今年4〜5月に行ったアンケートだ。セクハラに限らずパワハラなどのハラスメント全体について聞いたものだが、回答者(2411人)の実に約3割がセクハラを受けた経験があると答えたのだ。セクハラの内容は、介護に不必要な体への接触、性的な冗談を繰り返し言う、デートに誘ったり性的関係を求めたりするなど多岐にわたる。その結果、心身を壊すなどの深刻な影響が出た人もいた。

 介護セクハラの問題に詳しい専門誌記者が解説する。

 「もちろん施設でもセクハラは起きているが、訪問介護の現場が特に多い。浴室や寝室などの密室で1対1になることが多いためと考えられます」

 この記者によると、例えば浴室で男性利用者に陰部を洗ってほしいと言われるなど、セクハラなのか介護サービスなのかの境目が難しい例もあるという。「明らかに体が動く利用者であればセクハラに当たるが、体が不自由で自分では洗えないとなると、入浴介助として行うこともある。介護者の体の状態によるところが大きいので、そこを見極めるのが難しいことがあるのです」

 利用者だけでなく、その家族から性的な嫌がらせを受けることもある。関東地方の訪問介護事業所に勤めていた女性ヘルパーは「私の同僚は、利用者の息子から、また来てくれたね、今日もかわいいね、などと場違いな言葉を投げ掛けられた挙げ句、今度は外で会おうよと、しつこくデートに誘われました。また来てくれたも何も仕事ですからね」とため息をつく。

 「介護サービスは介護保険制度の中の公的なサービスであって、便利屋やお手伝いさんとは違う。それなのに利用者や家族がそこを理解していないために、自宅に女性のヘルパーが入ってくることで勘違いしてしまう面があるのだろう」と前出の専門誌記者は語る。

対応策を取らない事業所の事情

 だが、こうした現場のセクハラに対して、きちんと対応を取っている事業者は多くない。利用者からのセクハラへの対応策としては、女性職員ではなく男性職員に交代する、2人1組で介護に当たるといった対応が考えられるし、利用者の家族からのセクハラには事業者のしかるべき立場の人間がそうしたことをしないよう伝えるなど、抗議の姿勢を示すことが必要だ。ところが、こうした対策は現実には難しい。介護職員の9割は女性で、男性への変更が難しいことや、2人1組で介護にあたるとその分費用が倍になるため利用者側が同意しないことがその理由だ。

 外部からのハラスメントに関しては、事業者として毅然とした対応を取ることが肝要だが、ユニオンのアンケートでは上司や職場にセクハラを報告しても何も対策を取ってもらえなかった、最初からあきらめて報告しなかったなどと回答した人が目立った。「(セクハラ加害者は)認知症だから言っても分からない。諦めなさい」と問題にしないことを強要されたり、「態度に隙があるからいけない。性的な発言を上手にいなすのも仕事のうち」と逆にヘルパーの対応が悪いと受け取れる発言をされたりという例もあったと、専門誌記者は明かす。

 「利用者や家族との信頼関係が崩れるのは良くないと、事を荒立てないようにする事業者がまだ多いのが現状です」(同記者)。

 こうした現状を放置していては、介護人材がますます見つかりにくくなる。ユニオンが厚労省に提出した要請書では、特に制度の面から二つの改善を迫っている。一つ目は、2人訪問の際の利用費に補助を出すなど介護報酬の整備を行うこと。そして二つ目は省令を改正し、利用者や家族からの悪質なセクハラに対して介護サービスを打ち切れるようにすることだ。

 介護サービスを打ち切ると、利用者の生活に直結することから、厚労省令は「事業者は正当な理由なしに提供を拒むことができない」と定めている。この正当な理由の中にセクハラなどのハラスメント行為を含めてほしいというのがユニオン側の主張だ。

 こうした声を受けて、厚労省も対応を進めている。訪問介護の現場などでのハラスメントの実態調査を行っている他、事業者向けの対策マニュアルを整備する動きもある。しかし、利用者に向けた発信はなかなか難しい。

 介護保険制度が始まってまだ20年足らず。「現在の利用者の中心は、セクハラやパワハラといった概念のなかった時代の人達で、この人達の意識を変えるのはなかなか難しい。だからこそ、国や自治体がハラスメントを許さないという強いメッセージを出してほしい。そうしないと、介護の担い手が本当にいなくなります」と都内の30代のヘルパーは訴える。

 事業者に対する指導も必要だ。大手事業所などでは既に、利用者などからハラスメントを受けた職員の相談を受ける専用窓口を持っているところもある。こうした流れが小規模の事業所にも広がっていけば、職員に泣き寝入りを迫るような誤った対応は減るだろう。

 逆に、そうした対応をしない事業者に対しては国や自治体がきちんと指導をすることが大事で、マニュアル作りはそのための「根拠」となり得る可能性がある。「厚生」分野と「労働」分野の両方を司る厚労省の今後の動きに注目が集まる。

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