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未来の会

「医療AI」は現場でどう活用されているか

「医療AI」は現場でどう活用されているか
医療の質向上、コスト削減、膨大なデータの解析等々

AI(人工知能)の医療分野における利活用が進む中、千葉・幕張メッセで9月に開かれた第1回「医療と介護の総合展」のセミナーで、医療現場の最新活用事例が紹介された。

 最初に登壇したのは、日本における医療情報学の第一人者である紀ノ定保臣氏(岐阜大学大学院医学系研究科医療情報学分野教授)。

 岐阜大学医学部附属病院は2004年の移転時に「インテリジェント・ホスピタル」を目指す方針を打ち出し、それに見合うITシステムを導入。病院全体で医療データを共有・活用するために、サーバでデータを一元管理するシステムを構築した。また、医師だけでなく、薬剤師や栄養士、ソーシャルワーカーなども担当患者の電子カルテを閲覧できるようにし、対等に意見を交わせるようにしている。データ活用によって、平均在院日数の短縮、再手術率の低減、抗菌薬投与期間の短縮などを実現、医療の質を高めると同時に、医療コストも削減している。

 同病院では外来診療に要する時間も短くなったというが、紀ノ定氏はセミナーで、同病院における患者の診療待ち時間をAIの活用でデータ分析した事例を紹介した。患者に関するビッグデータを「受付」「予約」「初診」など特徴量に分けて解析したところ、例えば眼科は「9時52分」以降の受付時間が長くなったり、緑内障の外来は待ち時間が短かったりする結果が出たという。

 次に登壇したのは日本アイ・ビー・エムでヘルスケア分野を担当する小林俊夫氏(インダストリー・ソリューションズ事業開発ヘルスケア分野スペシャリストB.D.E.)。

 米国のIBMは人工知能システム「Watson(ワトソン)」を医療分野へ積極的に展開してきた。2015年にワトソン・ヘルス事業を立ち上げ、医療データ会社を相次いで買収。患者のビッグデータの活用が注目されている。また、ニューヨーク・ゲノム・センター、メイヨー・クリニック、ベイラー医科大学など多くの大手医療機関と協業。例えばメイヨー・クリニックでは、臨床試験で被験者をマッチさせるのにワトソンが使われている。

 小林氏は「世界中の研究者から年間70万件もの論文が発表されているが、個人で全てをチェックするのは不可能。そこで、論文などの非構造化データ(画像や音声、動画データ、文書など従来のデータベースモデルにうまく適合しない、構造定義を持たない非定型なデータ)を読み込み、理解し、推論できるワトソンが使われている」と話す。

 1年かかっていたデータ解析がワトソンによってわずか30分に短縮したり、ワトソンが提示した解決策を通して研究者同士が専門分野を超えて研究成果を共用したりするなど、これまで考えられなかった成果を上げているという。

 ワトソンは日本の医療機関でも活用され始めている。小林氏は国立循環器病研究センターの例を挙げ、「電子カルテの自由記述をワトソンが読み取っている。チェストペイン(胸痛)をCPと呼ぶが、従来は『CP』と打ち込むと、他の略語も引っ掛かるためうまく検索できなかった。今後は循環器だけでなく、心不全などの領域や病院経営の効率化でも効果が期待されている」と述べた。

 

 

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