自民党総裁選で3選を果たした安倍晋三首相は、選挙戦で掲げた「全ての世代が安心できる社会保障制度へと3年で改革を断行」との公約を実行に移す。任期の3年で中長期の社会保障制度改革にめどを付ける意向だ。
厚生労働省は「好機」と捉え、高齢者人口がピークに達する「2040年問題」をクリアできる改革に結び付けることを目指す。ただ、同省や財務省が思い描く負担増を首相官邸が受け入れる保証はない。
「2040年を見据えるというのはいいんじゃない」。首相は10月2日の内閣改造・自民党役員人事で党総務会長に就けた加藤勝信・前厚労相にそう伝えてきた。2040年は190兆円に達し、今の1・6倍に——。首相の言う「2040年」とは、加藤氏が厚労相だった5月にまとめた、40年度の社会保障給付費推計にまつわる話を指している。
それまでの社会保障給付費の将来推計といえば、「25
国立社会保障・人口問題研究所によると、40年の15〜64歳人口は今の7561万人(全体の60%)から5978万人(同54%)に急減する。一方で、65歳以上は3538万人(同28%)から3921万人(同35%)へと増え、支え手が細ることは避けられない。
厚労省は「来年秋に予定する消費税率10%へのアップだけでは、すぐに社会保障費が枯渇する」(幹部)とみている。そこで今夏の人事で「総合政策(社会保障)担当」審議官ポストを新設、エースと目される伊原和人氏を就けた。狙いは税・社会保障一体改革で決まった「税率10%」後のさらなる増税に道筋を付け、社会保障費を確保していくことにある。
「官邸は40年問題をよく理解してくれている」。厚労省幹部はそう語る。
だが、経済成長を重視する安倍首相は、10%超の消費増税に繋がる「ポスト一体改革」には触れていない。
厚労省も通常は将来推計時に公表してきた、消費税率換算値を今回は示さなかった。統一地方選や参院選を来年に控え、首相は「従来の改革は給付カットと負担増に偏っていた」と周囲に不満を漏らしている。厚労省も、40年に向けた対策には「健康寿命の延伸」「年金の受給開始年齢の上限引き上げ」などを挙げるにとどめ、負担増の気配を薄めている。
厚労省にすれば、首相の3年の任期内にも「消費税率10%超」の芽出しをしておきたいところ。とはいえ、首相が想定する3年間の行程表のうち、初年度は「高齢者が働き続けられる環境の整備」。働く高齢者を増やして国の負担を減らすとともに、労働力を確保することで経済成長に繋げることを意図している。
旗振り役は厚労省ではなく、成長路線の経済産業官僚が中心だ。
ポスト一体改革は、新たに厚労相に就任した根本匠氏が担う。ただ、自民党内には「厚労族」とみなされてきた中にも「消費税率は10%が上限」と考える議員がいる。成長重視の首相を抱える官界は、来秋の「税率10%」にさえ確信を持てない状況にある。
厚労省幹部は「正直、税率10%超を切り出すタイミングを計るのは難しい」と漏らしている。
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