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未来の会

勤務医の時間外労働の削減

勤務医の時間外労働の削減
1.「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」の開催

 2018年10月5日、厚生労働省医政局が中心となって、「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」の第1回目が開催された。村木厚子・元厚生労働事務次官やアーティストの「デーモン閣下」などの専門家や著名人などを構成員とした少し変わった感じの会合である。

 時間外や休日・夜間の不急の受診などにより、医師の負担が増大することなどを避けようとし、医療のかかり方に関する国民の理解を得る必要性を説こうというコンセプトのように思われた。もちろん、「受診制限」を目指すものではない。懇談会の中でも再三にわたって注意が促されていた。

2.時間外労働の主な理由

 懇談会の中では、「平成27年度厚生労働省医療分野の勤務環境改善マネジメントシステムに基づく医療機関の取組に対する支援の充実を図るための調査・研究事業報告書」から引用した「時間外労働の主な理由(平成27年6月)」も紹介されている。ワーストスリーは、「緊急対応」64.8%、「手術や外来対応等の延長」57.7%、「記録・報告書作成や書類の整理」55.6%だという。

 つまり、勤務医の時間外労働を削減していくためには、このワーストスリーへの大胆な対策が欠かせない。過剰な「緊急対応」「手術や外来対応等の延長」を減らすには、患者・家族の協力が有効適切であろう。また、過剰な「記録・報告書作成や書類の整理」を減らすためには、カルテ記載などの責務の量が削られなければならない。

3.「地域医療を守る条例」の普及

 10年くらい前、地域医療の崩壊に直面し、その対策として、コンビニ受診の制限などが叫ばれていた。その頃にいくつかの地方自治体で制定されたのが、「地域医療を守る条例」である。全国の市町村の中で初めて、しかも、市長自身の主導で当該条例を制定したのは、宮崎県延岡市であった。前述の厚労省の懇談会でも、その延岡市の地域医療対策室の担当者が構成員として参加している。

 例えば、延岡市の地域医療を守る条例では、「市民の責務」や「市の基本的施策」が明記された。「市民の責務」においては、「診療時間内にかかりつけ医を受診し、安易な夜間及び休日の受診を控えるよう努めること」とズバリ明文化されている。他方、「市の基本的施策」においても市の視点から、「市民に対する適正な受診の推進に関する啓発」を条例に書き込んだ。

 さらに、延岡市では、ただ単に条例を制定しただけでなく、その後も地元ボランティアや地元医師会らが連携して継続的な努力を続け、10年近く実績を挙げて来ているとのことである。各地の地域医療を守るためにも、勤務医の時間外労働の削減を目指すためにも、大いに参考にすべきところが多い。従って、「地域医療を守る条例」は、全国の地方自治体に普及されるに値するものと言えよう。

4.過剰なカルテ記載等の量的削減

 過剰な「記録・報告書作成や書類の整理」を減らすために、医師事務作業補助者(クラーク)の導入その他の様々な改善策も打ち出されている。それらはもちろん有効適切なものであり、今後も進めていくのがよい。

 ただ、本質的には、そもそも過剰となってしまった「記録・報告書作成」の責務の量的削減を目指すのが根本的な解決策であろう。

 例えば、膨大で多岐にわたる保険診療報酬請求の要件について見ると、「カルテ記載」自体が診療報酬請求の要件そのものとなっているものも多い。特定疾患療養管理料その他の医学管理料では、「管理内容の要点を診療録に記載する」こと自体が、診療報酬請求の必須要件となっているのである。

 その他にも、同様の例は少なくない。例えば、「入院診療計画書」について、緊急入院で数時間後に死亡した場合や日帰り入院などの7日以内の入院の場合は、医療法上は入院診療計画書の交付及び適切な説明を行うことは要しないとされたものの、入院基本料などの施設基準の要件としては、従前通りに入院診療計画の策定などは必要とされている。

 これらは一例にすぎないが、診療報酬請求の要件については量的削減の検討対象とすべきであり、改めていくべきものであろう。

 少々変わったものとしては、厚労省が打ち出している「精神保健指定医に対する行政処分の対象者に関する考え方」というものもある。精神保健指定の申請医自身による「診療録の記載」がない限りは、行政処分の対象とするかのような取り扱いをしているらしい。そこでは、「ケースレポートに係る症例の診療録の記載が全くなく、診断又は治療に十分な関わりがあったとはいえない申請者」や「ケースレポートに係る症例の診療録の記載が週1回未満であり、記載内容から診断又は治療に十分な関わりがあったとはいえない申請者」は、行政処分の対象としているようである。つまり、全く形式的機械的に申請医自身による「診療録の記載」自体を要求しているらしい。これも過剰の一例と言えよう。

 量的削減への改善策のアイデアとしては、「医療事故調査制度」において「予期しなかった」死亡に関して定めた厚生労働省令が、参考になるかも知れない。そこでは、「予期されていることを診療録その他の文書等に記録して」いなかったとしても、「管理者が、当該医療の提供に係る医療従事者等からの事情の聴取及び、医療の安全管理のための委員会からの意見の聴取を行った上で、当該医療の提供に係る医療従事者等により、当該死亡又は死産が予期されていると認めた」場合には、「診療録その他の文書等」は不要としたのである。ケースバイケースで、「カルテ記載」などの量的削減をなし得る改善策のアイデアを示唆するものと言える。

5.勤務医の時間外労働の削減

 以上は、勤務医の時間外労働の削減に向けた改善策のアイデアの一例にすぎない。ただ、「地域医療を守る条例」の制定と運用の普及、カルテ記載等の責務の量的削減など、医療全体のシステム改善に着目した大胆なアイデアによって、重要な目標を実現すべく努めていくことが望まれる。

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