SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

患者の気持ちに沿った医療実現のために ~皆保険制度の維持やACPの普及に取り組む~

患者の気持ちに沿った医療実現のために ~皆保険制度の維持やACPの普及に取り組む~
松原謙二(まつばら・けんじ)1956年広島県生まれ。82年広島大学医学部卒業。88年医学博士。95年東京大学教育学部卒業。2001年大阪大学法学部卒業。1982年広島大学医学部附属病院。83年市立豊中病院。85年大阪大学医学部(研究生)。87年大阪大学医学部附属病院。89年大阪ニット健康保険組合保険医療センター。93年松原内科開設。池田市医師会理事、同会副会長、大阪府医師会理事、日本医師会常任理事、池田市医師会会長、大阪府医師会副会長を歴任。2013年日本医師会副会長。

日本医師会副会長となって5年が経過、現在4期目を務める松原謙二氏は、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)医療保険部会委員としても活動している。超高齢化が進む日本で医療保険はどうあるべきか。人生の最終段階における医療の在り方について様々な議論が行われている中、その中心にいる松原氏にACP(アドバンス・ケア・プランニング)の普及・啓発の必要性についても話を聞いた。

——日本医師会の副会長として、今後どのようなことに力を注いでいきますか。

松原 これからの日本の医療は、高齢化が進む中で国民皆保険制度を維持していくにはどうしたらよいのか、ということが大きな問題になっていくと思います。それも、ただ皆保険制度を維持すれば良いというのではなく、患者さんの気持ちに沿った医療が受けられるようにしていく。それが、まず大切だと思っています。また、少子高齢化が進めば、保険を支える人が減ってきて、給付を受ける人が増えることになりますから、どうすれば皆さんが十分な医療を受けられ、しかも財政が破綻しなくて済むか、ということも考えていく必要があります。この二つを、バランスを取りながら、しっかりやっていかなければならないと思っています。国民皆保険制度を国民がより良い医療を受けられる保険制度として、今後も維持していくことは、日本医師会の願いでもあります。私は内科の開業医ですが、開業医が自分の地域できちんと患者さんを診ていくためには何が必要なのか。それを具体的に発言していきたいとも思っています。

——これまでの延長線上と考えてよいのですか。

松原 その通りです。副会長は現在4期目ですが、15年ほど前に2年間ほど保険担当の常任理事をやり、中医協(中央社会保険医療協議会)委員も務めさせていただきました。その時に問題だったのは混合診療を解禁するかどうかでした。私どもは、混合診療を導入すると外資系の保険会社がこの保険制度に参入してくることを危惧して反対したのですが、それによって現在の制度が維持されていると考えています。

高齢者の窓口負担はあまり大きくならないように

——日本の皆保険制度の優れている点は?

松原 ポイントが三つあると思います。一つは、保険者が全て非営利だということです。例えばアメリカのように保険者が民営化されていると、株式配当をするので、国民から集めたお金の一部が、患者さんのために使われずに配当に回ってしまいます。非営利の保険者しか作らなかったのは、日本の皆保険制度の素晴らしいところです。二つ目は、日本の全国津々浦々まで、十分な医療が受けられる制度になっていることです。それにより、予防的な医療、例えば高血圧をしっかり治療するようなことが可能になり、寿命を延ばすことに繋がってきました。三つ目は、十分に議論して医療の価格を決めていることです。保険者と医療者と国の三者で考える。支出する者と、使う者と、世間が見ているという構造です。これが、国民皆保険制度がうまくいっている大きな理由だと思います。

——チェック制度もうまく機能していますね。

松原 審査支払機関では医師も加わって審査を行います。現場の医師が決定して行った医療行為に対して、審査委員である医師がもう一度見ることになっているわけです。医師の行ったことを医師が審査するのはおかしいと言われることがありますが、それなら芥川賞や直木賞は文学者以外に誰が評価できるのでしょうか。やはり専門的な知識を持った人が、同じレベルで評価することが大切なのです。こうして、中医協制度と審査支払制度が運営上うまく回っています。こうしたことが、国民皆保険制度を守ってきたと考えることができます。

——皆保険制度を維持するため、後期高齢者の窓口負担を増やす必要はありませんか。

松原 75歳以上の方々は、普通は年金を中心とした収入で暮らしています。こういう人達にとって、医療費は大きな問題です。若い頃より医療を必要とする機会が増えますから、やはりなるべく少ない負担で済むようにすべきでしょう。その方が医療にかかりやすいので、早期受診にも繋がります。そうしたことからも、後期高齢者の医療費の負担は、あまり大きくならないようにすべきだと思います。

——しかし、このままで大丈夫でしょうか。

松原 社会保障審議会で私がよく言っているのは、生涯を終えた後で、残ったお金で払っていただくという方法です。よくあるのが、老後が心配なのでもっと貯めなければ、という考えです。90代の人が老後のために貯金しなければと言っているとしたら、それは国の在り方が間違っているのではないかと思います。生きている時の負担を大きくするのではなく、生涯を終えた時に、残ったものの中からお礼として払っていただく。これなら、生きている間は心配せずに医療にかかれます。高齢者からたくさん税金を取ったり、窓口負担を増やしたりするのではなく、お年寄りに優しい制度が必要とされていると思います。

人生の最終段階における医療

——終末期医療に関して、ACP(今後の治療・療養について患者・家族と医療者従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス)という考え方がありますね。

松原 今年3月、厚生労働省が『人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン』を改訂しました。私はこの改訂作業に関わった検討会のメンバーとして議論に加わってきました。患者さんの意見を尊重した医療及びケアを提供し、尊厳ある生き方を実現するためにも、患者さんが家族や医療・介護者と話し合っておくことは大切です。このような話し合いのプロセスをACPと呼ぶのですが、実際には、なかなかうまくいっていません。


続きを読むには購読が必要です。

 

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top