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未来の会

第111回 医療分野に特化したIoTの研究を 学際的に行うためのプラットフォーム

第111回 医療分野に特化したIoTの研究を 学際的に行うためのプラットフォーム
健康増進への貢献を目的に、医療分野に特化したIoTに関する研究を行うためのプラットフォームとして発足したIoMT学会。医療とITの融合であるIoMTについて将来像を探求している猪俣武範・代表理事に話を聞いた。

■IoMTとはどのようなものですか。

猪俣 IoMTとはInternet of Medical Thingsの略で、医療機器とヘルスケアのITシステムをオンラインのコンピューターネットワークを通じて繋ぐという概念です。医療機器にWi-FiやBluetoothを備えることで、医療情報をダイナミックにヘルスケアシステムとネットワークさせることが可能となります。まだ日本では浸透していませんが、アメリカでは注目され始めているので、私達が日本における先駆けとなって、広く知ってもらおうと活動しています。

■IoMT学会の概要について教えてください。

猪俣 2016年11月に設立しました。まだ駆け出しなので、正会員は100人弱です。医師が4割、企業の方が3割、あとは学生などその他が2割です。新しいテクノロジーが浸透する分野としては、ヘルスケアや医療は最後の聖域と言われています。病院は人の命に関わるので、IoTの導入にも慎重にならざるを得ないからです。効率性の改善でも一番遅くて、最近やっと動き出したところです。

産学官連携を促進させる場に

■学会の活動についてお話しください。

猪俣 まず、ヘルスケアにおけるイノベーションの産官学連携を促進させたいと考えています。アカデミアの方、企業の方、厚生労働省の方など、いろいろな人が交じり合う学会にしていきたい。年に1回、12月に行う学術総会では企業の方も官庁の方も参加しています。医師はアイデアがあってもモノの作り方が分からない場合がありますし、企業はモノを作る技術はあるけれどニーズがあるのかどうか分からない場合があります。その二者が一緒になって国を動かす必要もあります。そして、三者が交じり合ってダイナミックにイノベーションをプロモートできる場を作りました。研究者や医師しか入れない学会ではなく、誰でも入ることができ、メディカルに関わるイノベーション全てを扱います。その中の一つが医療機器のIoMT化で、今後全ての医療機器はネットに接続することでクラウド化していくと考えられます。そこから遠隔診療も可能になりますし、病院内のオペレーション改善への応用にも期待ができます。また、医療アプリやウェアラブルデバイスがIoMT化されることで、ビッグデータを容易に集めることができ、それを人工知能(AI)で分析し、新しい治療方法や医学的知見を得ることができます。また、新しく見つけたアルゴリズムでIoMT機器にAIを実装していく。そうすれば、機械自身がアップデートや故障の診断・予測・修理、患者ごとのマスカスタマイゼーションなどを自動で行うことができるようになります。

■昨年の学術総会のテーマは?

猪俣 全体のテーマは「医療におけるデジタルユビキティへの変革」。ユビキタスとは、「いつでもどこでも存在する」という意味で、医療分野でもAIやIoMTといったデジタルなものが身の回りに当たり前のように浸透してきたことを踏まえテーマとしました。あるセッションでは遠隔診療におけるIoT機器のセキュリティ問題を扱いました。AIビッグデータについては企業の方に、ヘルスケア分野の特許については弁護士の方にご講演いただきました。その他、「リサーチキット」というアップルのフレームワークを使った臨床研究、スマートデバイス、スマートホスピタル、治療アプリ、デジタル療法など、様々なテーマで一人10分ずつご講演いただきました。今年のテーマはまだ決まっていませんが、学術総会に参加いただければ、今のデジタルヘルス分野のことは全て見通せる内容にしています。IoMT機器ばかりのセッションではなく、網羅的な内容にしています。

病院のAI化で医師の働き方も改善

■AI病院とはどのようなものですか。

猪俣 まだはっきりとした定義付けはされていません。AIで全てのことができるわけではないので、AIを何らかの形で利用している病院と解釈しています。レントゲン写真や眼底写真をAIで判断するというようなところから始まるのでしょう。

■医師の働き方改革にも繋がる話ですね。

猪俣 私は厚労省の「医師の働き方改革に関する検討会」の構成員もやらせていただいておりますが、現在、AIやIoTの機能を使った病院業務効率化についても話し合っています。今後AIやIoTのニーズはますます増すでしょう。医師の働き方改革の目的は、医師の働き方を制限するためではなく、これまで医師個人の努力でカバーされてきた医師の業務を、社会システムとして改善し、医師自身も全人的な環境で働けるようにすることを目的にしています。それには、国民の理解も必要になります。例えば、医師は、患者さんの休みに合わせて症状の説明を週末に行ったりしている場合もありますが、そういった働き方は医師の過重労働に繋がります。AIやIoTによって医師の業務の効率化をすることで、医師の仕事をタスク・シフティング(業務移管)する方法も模索しています。その結果として捻出できた時間を患者さんへのケアにさらに充てることもできるようになります。

■他にどんなメリットが期待できますか。

猪俣 IoMTを使えば、大病院の待ち時間問題の解消にも繋がります。例えば、採血や調剤などの部門で患者さんが多かったり少なかったりしている時間帯が分かれば、スタッフの配置も効率化することができます。IoMTが実装された医療機器は個々人に応じたカスタマイゼーションができるようになるので、自動で患者個人に合わせた設定に調整することも可能になります。機械自体は最終的にオートノミー化されるといわれており、機械が自分自身で不具合を調整したり、アップデートしたりするようになるかもしれません。それだけでも人手がかからないようになります。

■IoMTを巡る社会的な変化を感じますか。

猪俣 設立当初よりも、AIやIoTという言葉や概念が身近になりました。今は知らない人がいないですし、医療に関わるAIのニュースも増えました。研究者の論文も、AIに関するものが増えています。AIは診断に適していると確信しています。IT系大手もヘルスケア分野に力を入れており、例えば、日本マイクロソフトはデジタルヘルス推進室を立ち上げたそうです。ソフトバンクは既に着手しています。また創薬分野では、IoMTを活用することで、データを効率良く収集できます。ゲノム解析の結果から、薬の開発に投資するケースも出てくるでしょう。製薬会社と医療系コンサルはどこもAIの利活用に積極的です。

■今後の課題と展望についてもお話しください。

猪俣 一般の方への啓発活動の一環として、今年は学会誌を創刊しました。この夏は分科会やセミナーも開きました。将来的には、何かしら学会発のプロダクトを出したいと考えています。

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