衆院解散で解散詔書を皇居に持参する役目を担う内閣総務官は、旧厚生官僚にとって重要なポストであることは意外と知られていない。夏の幹部人事で総務官だった土生栄二・総括審議官(1986年、旧厚生省)が首相官邸から厚労省に戻り、大西証史・前官房総務課長(88年、旧厚生省)が内閣官房内閣審議官に任命され、次の総務官候補となった。総務官経験者は官邸にも覚えめでたいことも影響し、いずれも次官級ポストにまで出世している
総務官は各省庁の官房長を束ねる官邸の要の存在だ。霞が関の人事や国会対応、危機管理を担い、各省庁が内閣官房長官や副長官に相談する案件の前捌きをすることもある。元々は古川貞二郎・元官房副長官(60年、旧厚生省)や江利川毅・元事務次官(70年、旧厚生省)ら「大物」を輩出した首席内閣参事官で、2001年の中央省庁再編で総務官に改組された。旧厚生省、旧運輸省、警察庁の旧内務省系省庁出身の官僚でポストを回しており、09年の政権交代後は旧自治省が加わった。現在は杉田和博・官房副長官や北村滋・内閣情報官ら警察官僚が官邸の主要ポストを占めているため、バランスを取る観点から警察以外の3省で分け合っている。
土生氏を除き、これまで旧厚生系で総務官を歴任したのは、柴田雅人・元内閣府審議官(74年)と原勝則・元厚労審議官(79年)。厚労省OBは「財務省や総務省と異なり、官邸に太いパイプがない厚労省にとって重要なポストだ」と話す。
現在の総務官は旧自治省出身の原邦彰・総務官(88年)。総務官は内閣審議官から昇格するのが通例で、大西氏が次の総務官に昇格するのは既定路線だ。大西氏は、医療費適正化対策推進室長や広報室長、総務官室内閣参事官、健康局総務課長などを歴任。直近は官房総務課長として働き方改革関連法案などで多忙を極めた通常国会の対応に当たった。厚労省幹部は「大西氏は打ってつけの人材」と評価する。
総務官は数年務めることが多いため、昨年7月に就任したばかりの土生氏の異動はイレギュラーだった。背景にあるのは、定塚由美子・官房長(84年、旧労働省)を社会・援護局長から抜擢したためで、これは女性登用に熱心な加藤勝信・厚労相の意向が強く影響した。先の省幹部は「定塚氏を官房長に抜擢することになったが、定塚氏は官房の経験も乏しく心配な面があった。裏の官房長として人事や予算、国会対応を取り仕切る役回りとして土生氏を呼び戻さざるを得なくなった」と付け加える。大西氏の内閣審議官への異動もこの玉突き人事の影響によるものだ。
土生氏は、大臣官房会計課長補佐や大臣官房総務課企画官、内閣参事官などを務め、「官房畑に詳しい」(別の省幹部)。総務官として安倍昭恵首相夫人の選挙応援問題などを巡り、鉄壁の国会答弁を繰り返したことなどは官邸からも評価されているという。
総務官は社会保障分野の政策に直接関与するポストではないが、厚労省と官邸を繋ぐ重要なポスト。脚光を浴びるのは、衆院で解散詔書を運ぶ姿がテレビで放映される時だが、近い将来、テレビで大西氏の姿を目にする機会が訪れるかもしれない。
LEAVE A REPLY