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第126回 障害者雇用不正を長年見逃してきた責任

第126回 障害者雇用不正を長年見逃してきた責任

 中央省庁など多くの国の機関や府県が、障害者の雇用割合を40年以上に渡って水増ししていた実態が明るみに出た。不正を働いてきた省庁は当然ながら、所管省庁の厚生労働省も「長年見過ごしてきた責任」を問われている。

 「障害のある方の活躍の場拡大を民間に率先して進めていくべき立場としてあってはならないこと。深くお詫びを申し上げます」。8月28日の記者会見で、菅義偉・官房長官は今回の水増し雇用問題について謝罪した。関係府省連絡会議と弁護士を交えた検証チームを設置し、10月をめどに原因や背景を突き止め、改善策を打ち出す考えを明らかにした。

 障害者雇用促進法は民間企業と国・自治体に一定割合の障害者の雇用を義務付けている。一定規模以上の企業は2・2%なのに対し、国や地方公共団体は2・5%(今年3月末まで2・3%)と高く設定。ところが厚労省の調査で、昨年度は国の33行政機関のうち、27機関で3460人の水増しがあり、平均雇用率は1・19%にとどまることが分かった。これまで同省は国で約6900人を雇用し、雇用率は2・49%と公表していた。

 同省のガイドラインによると、雇用率に算入できるのは障害者手帳を持っている人か、医師の診断書で障害が認められた人に限られる。それが各省庁などは、法定雇用率が定められた1976年以来、どちらにも当てはまらない人の一部を「障害者」として数えてきた。死亡した人、糖尿病の人を本人に断りなく算入していた省庁もあった。

 雇用率に算入できる基準として、厚労省のガイドラインは「『原則』障害者手帳を持っている人」としていた。各省庁や複数の自治体はこの点を捉え「『原則』なので、持っていない人でもいいと解釈した」などと釈明している。「悪いのは柔軟に解釈できる基準をつくった厚労省」と言わんばかりだ。これに対し、厚労省は今年5月の改訂版で、こっそり「原則」の文字を削除していた。批判への予防線を張ろうとしたとみられる。

 国の姿勢には、障害者団体からも強い批判が出ている。8月24日の野党合同ヒアリングで、日本障害者協議会の中村敏彦・理事は「あきれてものが言えない。努力をしてきた民間企業への背信行為だ」と語気を強めた。日本盲人会連合の工藤正一・総合相談室長は指導する側の厚労省についても触れ、「雇用率などもペーパーで確認しているだけではないか」と指弾した。

 事実、厚労省は「各省庁が算出した雇用率をまとめて発表しただけ」(幹部)。省内からは「各省庁が嘘をついているか調べるのは不可能」との不満も漏れるが、その無機能ぶりに、連合は「権限を持ってチェック、指導を行える機関の設置」を求めている。

 今後、法定雇用率を守るため、国の27機関は水増ししていた3460人分の障害者雇用を迫られる。厚労省の雇用開発部は「容易ではないが、やらなければならない」と強調するものの、一斉に進めれば人材の争奪戦となり、民間の雇用にも影響を与えかねない。担当者は「性善説に基づき、国の状況を調べてこなかった甘さが今日の事態を招いたのかもしれない」とつぶやいた。司法、立法機関でも同様の事例が発覚した。

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