厚生労働省の夏の幹部人事が7月24日に閣議了解された。発令は同31日。保険局長だった鈴木俊彦氏(1983年、旧厚生省)が事務次官に昇格するなど「順当な人事」(省幹部)とされる。あえてサプライズを挙げるなら、定塚由美子氏(84年、旧労働省)が社会・援護局長から官房長に抜擢されたことだろう。今回の人事の狙いを読み解きたい。
事務次官には、当コラムでも以前から指摘していた鈴木氏が就任した。年金局、社会・援護局と合わせ三つの局長ポストでの仕事ぶりが評価されたものだ。事務次官に次ぐ厚生労働審議官には、恒例の襷掛け人事で雇用環境・均等局長の宮川晃氏(83年、旧労働省)が昇格。次官級で医系技官ポストの医務技監は鈴木康裕氏(84年、旧厚生省)が留任した。
定塚氏の官房長抜擢は、女性活躍に熱心な加藤勝信厚労相の意向だ。来年の通常国会には今国会の働き方改革関連法案のような重要法案はなく、年末の予算編成も負担増に繋がる制度改正など重要案件がないため、「根回し能力に乏しい定塚氏でも務まる」(省幹部)と判断した。
定塚氏を裏で支える総括審議官には、内閣総務官だった土生栄二氏(86年、旧厚生省)を急遽呼び戻した。さらに万全を期して、官房総務課長に健康局総務課長で健康増進法改正案を主導した間隆一郎氏(90年、旧厚生省)を充てた。
旧厚生省で人材豊富な「花の(昭和)62年(1987年)組」からは、大島一博氏を内閣府官房審議官から省内に戻して老健局長に据える。入省年次は省内で一番若い局長となる。
密かに注目されるのが、大島氏と同期の伊原和人氏の処遇だ。大臣官房審議官に留任し、局長級への昇格は逃したものの、医療介護連携担当から新たに設けられた総合政策(社会保障)担当に就任し、政策統括官の下で働く。ある省幹部は「政策統括官は労働系で実質的には伊原氏がトップ。鈴木事務次官が熱心な2040年を見据えた社会保障改革を考える重要な役割を担うことになるだろう」と解説する。
不祥事が続いていた労働基準局長の山越敬一氏(82年、旧労働省)、部下から評判の悪かった職業安定局長の小川誠氏(83年、同)は退任し、労働系の主要局長は一掃された。
新たに労働基準局長に坂口卓氏、職業安定局長には土屋喜久氏の85年入省コンビが就任し、若返りを図った。特に大臣官房系の経験が豊富な坂口氏は、労働系の事務次官候補と目されている。
旧厚生系では、加藤厚労相からあまり評判が良くなかった医政局長の武田俊彦氏(83年)が、セクハラ問題に揺れた健康局長の福田祐典氏(85年)とともに辞職する。
一方、加藤厚労相の腹心・木下賢志年金局長(83年)は留任した。
来年夏の幹部人事は混沌とした状況だ。鈴木俊彦氏が事務次官の続投に意欲を燃やす可能性もある一方、女性登用の波に乗って定塚氏が村木厚子氏以来の女性事務次官に就任する選択肢もあり得る。鈴木氏の同期である樽見英樹保険局長(83年、旧厚生省)にも目は残っている。時の厚労相の意向が鍵を握りそうだ。
ただ、今回の幹部人事は、バランスを取りながらも女性登用に執心した加藤厚労相の意向が現れた「順当な人事」と言えるだろう。
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